エレベーターの音声案内、横断歩道の音声信号、なめらかな段差解消のためのスロープも、もとは特定の人のための工夫だったが、ベビーカーやスーツケースを引く人を含む全員の生活を変えた。
AI時代にアップルが選んだ道
ここで興味深いのが、Apple Intelligenceの活用方針だ。
生成AIの登場以降、グーグルやマイクロソフト、メタなど競合各社は、AIを活用した新しいアプリやチャットボット、新しい操作方法を次々と打ち出している。利用者は新しいサービスやインターフェースを覚え、使いこなす必要がある。
アップルが選んだのは、まったく逆の道だ。新しいアプリや操作体系を増やすのではなく、利用者がすでに毎日使っている既存の機能を、AIで内側から強化する。VoiceOver、拡大鏡、音声コントロール、文書の読み上げ機能。どれも何年も前から提供されてきた機能であり、利用者が新たに使い方を覚える必要はない。
この方針には、確かな根拠がある。アクセシビリティの専門組織WebAIMの最新調査によれば、世界中で視覚に困難を抱える利用者の71%が、スマートフォンとしてiPhoneを、画面読み上げ機能としてVoiceOverを使っているという。
これだけ深く生活に根づいたツールに、新たに何かを覚えてもらうのではなく、AIで静かに機能を底上げする。当事者にとっての恩恵は、新サービスを乱発するよりはるかに大きい。
そもそもアップルは、生成AIブームのはるか前から、AIや機械学習をアクセシビリティ機能に取り入れてきた。
自分の声を学習させて合成音声として使う「パーソナルボイス」、危険な音を検知して通知する「サウンド認識」、視線で画面を操作する「アイトラッキング」。いずれもAIの力を借りて、利用者の自立を支える機能として静かに進化してきた。今回のアップデートは、その延長線上にある自然な歩みといえる。
加えて、アップルがこの領域で繰り返し強調しているのが、プライバシーの確保だ。たとえば動画への自動字幕生成は、すべての処理がデバイス内で完結する設計となっている。
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