家族や友人とやりとりするごく私的な動画を扱う以上、データを外部のサーバーに送らない仕組みが前提になる。AIの便利さとプライバシー保護を両立させる現実解として、アクセシビリティの領域はアップルの設計思想がもっとも鮮明に表れる場でもある。
「医療機器っぽさ」を変えた理由
最後に紹介したいのが、アップルが今回あわせて発表した「Hikawa Grip & Stand for iPhone」というアクセサリーだ。
マグネットでiPhoneの背面に取り付けるグリップ兼スタンドで、握る力が弱い人や手の動きに制限がある人でもiPhoneを安定して持てるよう設計されている。本日からアップル公式オンラインストアで新色3色が販売され、日本を含む20の国・地域で購入できる。
この製品の背景には、アップルが大切にしているもう1つの発想がある。
これまで、握る力が弱い人や手が不自由な人のために設計されたアクセサリーの多くは、機能性を優先するあまり、見た目が無骨で「医療機器のよう」になりがちだった。手に取る人にとって、それは「使いたいから使う」ものではなく、「必要だから仕方なく使う」ものでしかなかった。
アップルが目指しているのは、その状況を変えることだ。誰もが使える設計の製品でも、美しく、大胆で、思わず手に取りたくなるものであるべき。
そう考えて、ロサンゼルスを拠点に活動するアーティストのベイリー・ヒカワ氏とパートナーシップを組み、PopSocketsとの協業で量産化を実現した。実際に並んでいる3色のグリップは、アクセサリーというよりアートピースに近い佇まいで、見た目だけでも手に取りたくなる。
「機能するから我慢して使う」のではなく、「使いたいから手に取る」。一見、当たり前に思えるこの発想の転換が、アクセサリー業界では長く実現してこなかった。
ジョブズ氏が生前繰り返し語った「テクノロジーとリベラルアーツ(教養や芸術)の交差点」という言葉がある。アップルが今回見せた姿勢は、その思想をアクセシビリティの領域にそのまま持ち込んだものだ。
新機能の正式提供は、今年の秋を予定している。手元のiPhoneやMacが、ある日静かに、もう少しだけ多くの人にとって使いやすい道具に変わる。それは、どこか遠い誰かのための変化ではなく、いずれ自分自身や家族を支えてくれるかもしれない変化でもある。アップルが毎年5月にこの種の発表を続ける理由は、そのシンプルな事実に尽きる。
