平日はずっと仕事で家を空けていた夫には、前川さんの気持ちを汲み取るのは難しかったのかもしれない。「お手伝いさんを雇っているんだから」と言われたが、当時は週2日のみ。子どもの世話を任せたこともあったが、下の子はかわいがるけれど、上の子には冷たい態度を取るなど、性格的にあまり合わないタイプだった。
「精神的な助けにはならなかった」と、前川さんは振り返る。
上の子はちょうどイヤイヤ期に突入し、生まれたばかりの下の子の世話を同時にしなければいけない。周囲に子育ての相談をできる人もおらず、家に閉じこもりがちな生活のなかで、次第に上の子にイライラするようになった。今度は自己嫌悪に陥り、涙が止まらなくなった。
「夫に『こんなんじゃ、やっていけない!』と訴えたこともありました。決定的だったのは、17階のベランダに吸い込まれそうになったことですね。あ、これはダメだ。何かしないと、と思いました」
子育てのみの日々を送って鬱に近い状態になり、「自分の好きなことをする時間を取ろう」と考えた前川さん。そう考えたときに出てきたのは、心理学だった。
心理学の活動について調べ、日本人が行っている「バンコクこころのでんわ」と「みんなの相談室」という活動について知った。さっそく連絡を取り、前川さんはボランティアとして活動に加わることに。永住者や現地で働く人、駐在妻などさまざまな人の相談に乗った。
熱心にボランティア活動に取り組むようになってからは、精神的にも安定していった。結果的に、約4年間の滞在中、男性駐在員や女性、母親向けに40回以上のセミナーを行い、計300人以上のメンタルサポートを行った。
駐在妻が抱える悩みの正体
心理学の専門家として、駐在妻の当事者としての経験を持つ前川さんに、駐在での困難や乗り越える方法について聞いた。
まずは、渡航後3カ月~半年ほどで陥りやすいという「アイデンティティ・クライシス」について。日本では仕事や地域とのつながりなど多様なコミュニティに属しているが、駐在妻はビザの関係などもあり働けないことが一般的なため、家事と育児のみになりやすくアイデンティティの喪失に悩むケースが多い。特に、キャリア志向の女性ほど強く見られる。
前川さん自身も同様の経験をし、渡航後に体調を崩した。
次ページが続きます:
【私は毎日何をしているんだろう】
