東洋経済オンラインとは
キャリア・教育 #今変わらなくて、いつ変わる? 学校教育最前線 教育研究家 妹尾昌俊

高校で蔓延する「やりすぎ教育」…"特色や魅力づくり"の過熱化で教職員も生徒も負担増、いったい誰のための改革か?

11分で読める
黒板の前で授業をする男性教諭
(写真:buritora / PIXTA)
  • 妹尾 昌俊 一般社団法人ライフ&ワーク代表理事、OCC教育テック大学院大学 教授
2/5 PAGES
3/5 PAGES
4/5 PAGES
5/5 PAGES

宿題は子どもにとって「残業」では? という問題提起など、考えさせられる話だ。この本を参考に私なりに考えてみたのが、次の表だ。

左側は教育の「やらなすぎ」(放棄)について例示した。不登校が続くのは本人や家庭のせいだとして、学校ないし教育委員会等がほとんど何も支援をしないのは、教育の放棄と言えるかもしれない。

また「進路変更」という名の下、十分な支援や救済措置のないまま一部の生徒を中退させてしまうことは、教育の「やらなすぎ」と言えるかもしれない。沖縄での修学旅行中に死亡事故が起きたが、自由という名のもとに学校側が安全確認を怠っていた、生徒に任せきりだったとすれば、それは「やらなすぎ」教育と言えるだろう。

一方、右側は教育の「やりすぎ」(過剰)を例示した。冒頭で申し上げた部活での遠征中の事故も、学校の管理責任という教育の「やらなすぎ」の問題もあると同時に、早朝から出かけて片道200キロの先まで練習試合に行くという「やりすぎ」、部活の過熱化の問題もあろう。

そして、ここまで述べてきたように、高校間競争の激化と、特色づくり、魅力化の圧の中で、「やりすぎ教育」はいっそう広がり、強くなる可能性が高い。高校生が探究的な学びや校外に出ていろいろな刺激を受けてくることは、私は基本的には大賛成だし、いくつかの高校を支援もしてきた。

だが、同時に配慮したいのは、そのために高校生と教職員が追い立てられ、駆り出され、余裕がなくなることを防ぐ必要もある、ということだ。

部活動についても、2018年にスポーツ庁が最初のガイドラインをつくったとき(私は策定の委員をしていた)重視したのは、練習時間が長すぎると、外傷やスポーツ障害、バーンアウト気味になる生徒が増える心配があったからだ。つまり、教員の負担の問題以上に、部活のやりすぎで生徒をつぶすな、ということが重要な理念だった。

ところが、文科省のグランドデザインにも、これまでの国・教育委員会の高校教育改革でも、子どもたちに負担が高まりすぎることへの懸念や対策は、恐ろしいほど少ない。むしろ、AI時代に生き残れ、企業が求める人材になれ、と子どもたちを駆り立てようとする圧が強い。

加えて、公立には巨額の基金等で支援しているのだから、私立には授業料支援等で多額な公費を入れるのだからと、「金を出している分、もっと成果を出せ」と、文科省も財務省も国会議員なども、これまで以上に言ってくるだろう。

これを受けた教職員、教育委員会、学校法人(私立)はもっと頑張ろう、頑張らざるを得ないとなる。そのしわ寄せが子どもたちと教職員の負担として重くなりすぎたとしても、そこのリスクやマイナス影響は、見て見ぬふりをすることになるのではないか。

しかも、「やらなすぎ」の問題を指摘すればするほど、これも高校に、もっとやれ、頑張れという圧に転化する。例えば、公立、私立問わず、修学旅行などでの事前準備や当日の安全管理はいっそう大変になることだろう。人手を増やせないままでは。

副作用を防ぐ手立ても進めるべきでは?

長くなるので、今後に必要な対策までは詳述できないが、国などは、競争を促進するなら、その副作用を防ぐ手立ても合わせ技で進めるべきだろう。

例えば、文科省や都道府県等も、教育課程などの調査をするだけではなく、「授業は補習等を含めて週〇コマ以内にする」、「部活動の遠征は月1回までとし、週2日以上は休養日を設ける」といった上限設定を検討することも1つではないかと思う。

また、私立学校には、これまで国、自治体の関与も縛りも弱かった。私学の自由を保障するよさもある反面、進路実績でも部活動でも、公立・私立問わず競争している環境の中では、生徒の過度な負担を防ぐための措置について、私立にも適用が広がる仕組みを考える必要があると思う。

併せて、生徒や保護者、社会の目として、高校選びなどの際に、進路実績や部活の成績、手厚いカリキュラムや補習ばかりに目を向けるのではなく、子どもたちの負担にも注目してほしい。しんどい子への配慮や意見表明がどれほど重視されているか、説明会などで聞いてみてもよいだろう。

武田信子さんの著書のサブタイトルは「商品化する子どもたち」。これまでの、そしてこれからの高校改革は誰のためのものなのか? AIに負けない人材がほしい企業のためなのか? 人口減少で存続が危ぶまれる自治体のためなのか? 巨額の予算を取ってきた文科省のためなのか? 本当に高校生のためになるかが問われている。

この記事はいかがでしたか? 以下のリアクションへの反応やコメント欄にご意見をご記入ください。今後の企画の参考にさせていただきます。
東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

キャリア・教育

人気記事 HOT

※過去1週間以内の記事が対象