このことは、私たちが空腹(ハングリー)という言葉を、食べ物がない不快さだけでなく、何かを渇望する心理状態にも用いる理由でもあるのかもしれない。それは、人間にも動物にも共通する、本能的な原動力なのである。
「長いあいだ食べないと、体は活動を低下させるどころか、むしろ活発になるんです」。腎臓専門医であり『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』の著者でもあるジェイソン・ファン博士は、私にそう語った。
「空腹のオオカミと、食事を終えたライオンを思い浮かべてください。どちらがより集中しているでしょう? 空腹のオオカミです」
南カリフォルニア大学の研究者によれば、こうした空腹に対する有意義な反応は、数十億年前、原核生物にすでに現れていたという。原核生物とは、微小な単細胞生物であり、地球上に最初に誕生した生命である。
人間の空腹時の反応を思い起こしてみよう。ホルモンが分泌され、脂肪が燃焼する。ファン博士の説明によれば、これによって体は脂肪とアドレナリンからエネルギーを得る。そのアドレナリンは、注意力と集中力を高める作用をもつことが確認されている。
「何を食べるか」よりも「食べないこと」
現代人は、ディクディク〔訳注 アフリカに生息する小型のレイヨウ〕を追いかけ、仕留めるために、エネルギーや研ぎ澄まされた集中力を必要とすることはない。だが、そうした空腹がもたらす進化的な化学反応の恩恵を、現代的な目標を達成するために生かすことはできる。
パンダとファンによれば、空腹は人が現代生活の課題に取り組むうえで、集中力や生産性を高める助けになる可能性があるという。また、ほかの研究者たちも、就寝の数時間前から食事を控えると睡眠の質が上がると指摘している、とパンダは言う。「深く、長く眠れるようになれば、翌日の集中力も高まるはずです」
こうした研究結果は、「健康のためには何を食べるかがすべてだ」と思い込ませてきた流行のダイエット商法とは正反対のものだ。むしろ、食べないこと、そして本当の空腹を感じることのほうが、はるかに大きな可能性を秘めている。
(翻訳:須川綾子)


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