ある日、コーンポタージュにパイ生地をかぶせて焼いてみた。料理人からすると、何ら難しいことではなかった。
しかし、お客さんの反応は違った。
「こんなの見たことないって喜んでくれて。ただコーンポタージュの上にパイをのせて焼いただけ。こんなことで喜ぶの? って」
のちに、ぎゅう丸の看板メニューとなる「パイ包みスープ」が生まれた瞬間だった。口コミが広がり、パイに包まれたコーンポタージュを求めて客は増えていった。
「料理人のテクニックよりも、単純なものの方がお客さんに伝わる。あれこれ難しい料理を出すよりも、誰もがおいしく食べられる料理で違いを出すことが大切」
SNSのない時代、不便な場所に人を呼べるのは口コミだけだった。わざわざ足を運んでもらうだけの理由が必要だった。
「帰って人に話したくなるようなものじゃないと、広がっていかん。当時はわからなかったけど、あの場所に店を開いたのが正解やったなって」
おいしいで生きていく
肉汁あふれるハンバーグも、狙って作ったわけではなかった。その原点は、修業時代にさかのぼる。
修業先のレストランは、200席ほどある大きな店だった。1年半、皿洗いやタマネギの皮剥きをしながら、複数の料理人が腕を振るう姿を見ていた浩さんは、あることに気づく。
「料理人によって塩コショウの加減や火の入れ方が違う。人によっておいしいという感覚は異なる」
みんなが感じるおいしいとは何だろう。100人が100人おいしいというのは難しいかもしれない。でも、7〜8割のひとがおいしいと感じるものなら作れるはずだ。
「自分はおいしいで生きていくと決めた」
そこから研究を重ねて肉汁あふれるハンバーグが生まれたのかと尋ねると、浩さんはゆっくりと首を横に振った。
「それは、結果論」
「ぎゅう丸のハンバーグは肉汁がすごいってお客さんに言われて初めて、自分のハンバーグの特徴を意識した」
ぎゅう丸がゆめタウン博多店に出店した頃から、「肉汁」という言葉がハンバーグとセットで使われ始めたと、浩さんは感じている。「肉汁ハンバーグの走りかもしれん」と笑顔を見せる。これも、結果論だ。
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【自分のおいしいの基準を大事にする】
