あるとき、作家からネームを渡されたが、課題が多いと感じた。
そこで作家に質問してみたら、「今日は自分でもっと良くできるところを考えたいから、感想はいらない。この先の展開を話すから聞いてほしい」という答えが返ってきた。相手の心理状態は、聞いてみなければわからないのだ。
昔の僕は、伝えるタイミングというものを意識していなかった。最速がいいとばっかり思っていたから、作品の感想を真っ先に伝えていた。それをうまく受け取れない新人作家と接するなかで、質問をする癖がつくようになった。
『宇宙兄弟』の小山宙哉さんとも、「アイデアを編集者から事前に聞きすぎると、ストーリー作りがしにくくなる」という対話を経て、事前の打ち合わせをするのはやめた。今は「下書きが出来上がったときに、鏡として徹底的に感想を伝える」というスタイルになっている。
「率直に伝える」ことの大切さ
ここで大切なのは、「率直に伝える」とは「主観を押しつける」ことではない、という点だ。
たとえば、誰かの鼻を触る癖を直してほしいとき、「鼻を触るな」と命令すれば角が立つ。だが、「鼻を触るのはうそをついているサインだというデータがあるらしいよ」と「情報」として提示すれば、相手は自発的に「なら、やめよう」と判断できる。
編集者の感想も同じだ。「こうすべきだ」と命令するのではなく、「観察された事実」や「仮説」という形で、そっと置く。
「あだち充さんの作品は、セリフがほとんどないけど、すごく情感が伝わる。一緒になんでか考えてみよう」と伝えるほうが、「セリフが多すぎて、説明的に感じる」と言うよりもいい場合もある。
伝え方は、関係性によって変わっていくが、信頼関係ができる前は、編集者がさまざまな工夫をしていきたい。
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【自ら気づいて動くことの大切さ】
