アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、過去15年間にわたり同社を率い、卓越した実績を積み上げてきた。最大の成果の一つが、中国との向き合い方に関する戦略の確立かもしれない。
同国は巨大な消費市場であると同時に「世界の工場」であり、ソ連崩壊後に米国が享受してきた技術的優位に対する最も手強い挑戦者でもある。
クック氏は2011年に故スティーブ・ジョブズ氏の後任としてCEOに就任する以前から、最高執行責任者(COO)として中国をたびたび訪れていた。アップルのグローバル供給網を設計した同氏は、世界最大の人口を抱える同国で広範な製造ネットワークを構築する中核を担った。
中国では月額およそ150ドル(2万4000円)の基本給で働く数十万人の若い出稼ぎ労働者が、世界中の顧客向けにiPhoneやMacBookを組み立てる作業に従事してきた。クック氏はこれを非常に重視していた。
中国の製造力を繰り返し称賛
2010年夏、アップルが委託するフォックスコンの工場で自殺が相次ぎ、労働環境への批判に直面する中、クック氏は深圳に飛んだ。この出来事は、企業イメージを揺るがす危機への対応を巡る同氏の初期の大きな試練の一つとなった。
その後の訪中でも、クック氏は中国の製造力を繰り返し称賛してきた。2017年のフォーラムでは、供給網の規模や技術者層の厚みが拡大したことで、中国の魅力はもはや単なる低コストではないと述べた。
もっとも、テスラのイーロン・マスク氏やエヌビディアのジェンスン・フアン氏、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのベルナール・アルノー氏、ゴールドマン・サックス・グループのデービッド・ソロモン氏ら、多くの大物経営者が中国を毎年訪れている。ただ、一般の中国人との距離の近さでは、クック氏に匹敵する人物は少ない。
公園を歩き、興味を示す通行人に声をかけ、動画ブロガーと気軽に言葉を交わす。その様子は、時折顔を出す身近な人物のようだ。親しみやすさを感じさせるが、手の届かない存在でもある。
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【中国政府にとってもアップルは特別】
