また、近場でもまなざし旅という思考を持っておくと、旅の計画の幅を広げてくれます。たった1時間でも自宅から離れてしまうと、意外と未知の世界がそこにはあります。同じ東京でも、新宿と八王子では色が全然ちがう。
ほんの少し離れた場所でも、子どもにとっては、日常生活とちがう冒険となります。切符を買い、知らない駅で降り、初めての道を歩く。移動時間はかからなくても、その一つひとつが、日常とのズレを持っていて心を動かす。
大切なのは、旅の規模の大きさではなく、その時間で何を感じるか、それをどう捉えるかなんですよね。
ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロさんが語った「横の旅行(身近な地域を超えて移動し、似たような価値観を持つ人々と交流すること)」「縦の旅行(地域内の他者の異なる生活世界を深く理解すること)」という概念になぞらえるなら、弾丸旅はまさに「縦の旅行」と言えるのではないでしょうか。
遠くの海外より近くの国内。まなざし旅の行き先は、色んな場所にあふれています(参考:「カズオ・イシグロ語る「感情優先社会」の危うさ」東洋経済オンライン、2021年3月4日)。
電車で30分の場所への弾丸旅も新鮮
わが家の弾丸旅で、いままで一番近い場所は、自宅から電車で30分の場所にある海辺の民宿です。そこは、漁師さんが暮らす小さな漁港の街。海岸沿いを歩けば、軒先に干物が干されて売られていて、宿で出されるお刺身は、近所のスーパーのものよりも分厚くて新鮮でした。
当時、お刺身が少し苦手だった子どもたちも、その日は不思議とバクバク食べていたのを覚えています。刺身を食べられる自分との出会い。
自宅から、時間と距離という意味では近い旅です。しかし、停泊する漁船、青い海と空、そして潮の香り。日常では出会わない風景です。
ほんの少し移動しただけで、ちがう生活圏があり、ちがう仕事があり、ちがう暮らしがある。そんな縦の世界を垣間見ることができる。遠くへ行かなくても、旅は成立します。このことに気づかせてくれるのも、弾丸旅の大きな魅力です。

