それから時は流れ、この事件が語られることは少なくなった。ところが46年後の今年、この事件を題材にした『世紀血案』という映画が制作されていることが突然明らかになった。2月1日、映画の制作記者会見があり、すでに撮影は終了して27年に上映されると発表された。
当事者の承諾もなく、歪曲化懸念もあり炎上
出演した俳優らが映画のテーマには似合わない笑顔で撮影の感想を語った。うち1人の女優から「この事件はそれほど深刻なものではない」という発言が飛び出し、映画が事件を歪曲化するのではないかという疑念が広がった。また、林義雄氏から映画化の承諾を得ていなかったことも明らかになり制作陣への批判が噴出し、台湾のネットで大きく炎上した。
台湾の議論は何事も政治色を帯びやすい。この事件について積極的に発言するのは民進党支持者が多く、当時の国民党体制を批判する視点から論じられる。国民党支持者はこの事件について沈黙するか受け身な姿勢が多く、民進党が事件を政治的に利用していると批判し返すという構図だ。
ただ、映画に対しては危惧を表明する人が圧倒的に多く、党派色を超えて広範な批判が巻き起こったといえる。映画の制作陣は、歴史の記憶をいまに伝えるという理念を説明することができなかった。
この議論の過程で注目されたのは、台湾のランドマークとして知られる「台北101」ビル管理会社トップの賈永婕(ジア・ヨンジエ)会長だった。賈氏はタレント出身で、コロナ禍で医療機器の寄贈活動が注目されたものの政治経験はなく、24年に頼清徳政権によって台湾を代表する今のポストに抜擢された。
賈氏は会長就任以来活発に発信を続け、元気のよい台湾女性経営者を代表する1人としてその言動に注目が高まっていた。今年1月、動画配信大手ネットフリックスの企画でアメリカ人ロッククライマーが命綱なしで「台北101」ビルの登頂に挑戦するという大イベントがあったが、準備を万全に進めてこの大イベントを成功させた賈氏の手腕に称賛が集まっていた。
その賈氏が、林義雄一家惨殺事件について「事件の真相を知りたい」とSNSに投稿し、大きな反響と議論を巻き起こした。賈氏は海軍将校の軍人家庭に育った外省人(終戦後台湾に移住した中国出身者)第2世代。台湾社会ではどちらかといえば国民党系の人と思われていた。家庭では事件をあまり意識することなく育ったが、映画の論争に触発され、殺害された双子の娘が自分と同い年であったことに衝撃を受けたようだ。






















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