「漫画を描かずに死ねない」→仕事辞め、30代半ばで"漫画家に転身"…10歳で物語に絶望した彼女が、「ノスタルジックな漫画」を描くに至るまで

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ーー先が見えない時代に、成功への転機になった出来事はありましたか?

転機というよりも、「漫画を一作も仕上げずに死んでしまったら、何のために生まれてきたんだ」という気持ちにひたすら突き動かされていたと思います。自分が本当にやりたいことに気づかないふりをすることや、気づいたとしてもやらない言い訳をしたまま人生が終わっていくことが嫌でした。

あと、きっかけの1つとしては、2010年前後に写真家・石川直樹さんのエッセイ『全ての装備を知恵に置き換えること』(集英社文庫)の1文を読み、それまで自分が捉えていた世界の見方が一変したこともあります。

「先が見えないことと行き止まりがないことは違う。」という一文で、仕事でも育児期の私生活でも、ままならないことが多かった当時の私のターニングポイントとなりました。新しい視界を手に入れたような感覚があって、その言葉はずっと大切にしています。

バズって多くの人に読まれる漫画がうらやましい

ーー漫画家として成功するために必要なことは何ですか?

私が成功しているかはわかりませんが(笑)、まず1作を仕上げることです。実際に漫画を描き始めて、続けられる人はその半分にも満たない。1作を完成させるのはとても大変なことですが、それができなければその先はない。

私は何が何でも『水辺のできごと』を完成させようとしました。そこから次につながっています。

ーー『水辺のできごと』も『棕櫚の木の下で』も、作家性が強くにじむ作風です。商業性との葛藤はありますか?

もちろん売れたいし、たくさんの人に漫画を読んでもらいたい。でも、『棕櫚の木の下で』がバズる漫画かというと、そうではない。感想さえなかなか語りにくい漫画です。

私は感覚的な部分を伝えたいと思って描いているので、どうしたらもっと読んでもらえるかを考えたときに、アートに寄りすぎず、説明的にもならないバランスを意識しています。それが商業性ということかもしれないです。

ーー作品をバズらせて、漫画家として有名になりたいという気持ちもありますか?

あります。興味を引きそうな強い表現の漫画やエロ漫画を描けば、そこそこ読まれて、名前も知ってもらえるのではないかって浅はかに思ったり……。

SNS上でバズっている漫画を見ると、たくさん読まれていてうらやましいなって単純に思います。ただ、バズることだけを目指すと、心置きなく漫画を描けないと思うので、どうしたらいいんだろうって思考がぐるぐる回っています。

結局、自分にできることは、たんたんと描くことだけだと思います。実際に、原稿を描いているときは、没頭していてそういう思考はどこかへ行ってしまいます。

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