まるで天からの贈り物…男が育てたカリフラワーの末路。いとうせいこうさんの「サラダにして食う夢」を奪った"粒々"の正体

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例えば太陽光パネル付きの灌水器からの水も、優先的にチューブから流れるようにし、プランターの下には皿を置いて水が必ず溜まっている状態にしておき、ついうっかり涸らしてしまうことのないようにした。まるで種の時からカリフラワーを大切にしていたようなフリに専念したわけだ。

むろん心の底では「ラッキー!」と思っていた。「育つと思ってなかったなー」「悪かったな」「しかし、大きくなったら感謝祭みたいに盛り上げてサラダにして食おう」と、毎日様子を見る度になんとなく複雑な心持ちながら、ほくほくしていたわけである。

茎に現れた「粒々」の正体

が、それが突然、5月の半ばになって、元気な厚い葉の表面、あるいは太くなりゆく茎のあちらこちらに少し大きめの粒々がついているのがわかった。カリフラワーは樹液でも噴くのかと最初は思った。そのくらい粒々は動かなかった。

数日後、粒々の増え方を見て、俺は真実を受け入れざるを得なかった。アブラムシであった。俺が感謝祭を行う前に、連中は早くも俺の大事なカリフラワーに勝手に感謝を捧げ、祭りのように大勢でたかり、たぶん栄養を吸い出していた。

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急いで殺虫スプレーを噴霧させたが、ここが俺の対策不足で、スプレーは古かった。ちっとも効く気配がない。ないどころか、黄色いアブラムシは隣で育っていたチューリップにも祭りを拡大させた。あたり一面に奴らは出た。

そもそもアブラムシどもはどこから現れるのか。そして恐怖の式典を続けることでなぜ対象を弱らせ、せっかくとりついていた葉や茎を茶色く腐らせてしまうのか。

なぜだ。何をやっているのだ、アブラムシは。栄養を吸うのはそこそこにして共存共栄を考えろ。間抜けめ。

というわけで、まずチューリップが、そしてカリフラワーがみるみる滅びた。原因はむしろ皿に溜まった水で、虫どもと共に植物の根を痛めつけていたのだった。

特にカリフラワーに関しては、もともと興味がなかったからこその深いダメージがある。うっかり水をやり過ぎたために、感謝祭の夢は潰えた。

いとうせいこう 作家・クリエーター

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いとう せいこう / Itou Seiko

1961年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒業後、編集者を経て、作家、クリエイターとして活字・映像・舞台・音楽など多方面で活躍。『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞を受賞。『想像ラジオ』が三島賞、芥川賞候補となり、第35回野間文芸新人賞を受賞。ほかの著書に『ノーライフキング』『自己流園芸ベランダ派』『能十番―新しい能の読み方―』『「国境なき医師団」をそれでも見に行く 戦争とバングラデシュ編』『見仏記 三十三年後の約束』(みうらじゅん氏との共著)など多数。

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