それでは、なぜインフレ局面になると財政健全化目標の変更が必要になるのか、よくわからなかったので会議資料を読んで驚いた。
諮問会議の民間委員である若田部昌澄氏(前日銀副総裁・早稲田大学教授)が提出した資料には、「新しい時代にふさわしい新しい経済財政政策基本戦略の構築」の「基本方針」として「高圧経済」が掲げられている。
ちなみに、若田部氏は諮問会議の専門委員会である「経済・財政一体改革推進委員会」の会長も兼務しており、高市首相の経済ブレーンの筆頭に位置付けられている。
若田部氏、会田氏らが「高圧経済」の推進役
「高圧経済」を持ち出すのは若田部氏だけでない。高市首相が新たに発足させた日本成長戦略会議の初回会合(11月10日)で委員の会田卓司氏(クレディ・アグリコル証券東京支店チーフエコノミスト)は「需給ギャップを2%超まで押し上げる高圧経済を目指(す)」と発言し、ここでも「高圧経済」がキーワードになっている。
同氏の資料には、「官民連携の成長投資と『高圧経済』で、設備投資サイクルを押し上げ、企業貯蓄率をマイナスに戻す」「企業貯蓄率のマイナス化には、拡張的経済政策で、2%超の需給ギャップの『高圧経済』が必要である」と「高圧経済」が乱舞している。
正直驚いた。
「高圧経済(High-Pressure Economy)」とは、グローバル金融危機(2007~10年)、欧州債務危機(10~13年)など世界的な経済危機を経験した世界経済のLow for Long(長期間にわたる低成長、低インフレ、低金利)に対応するために、日米欧で採用された金融政策である。
簡単にいえば、景気が過熱しても低金利を維持することで、さらに経済を過熱させ、危機が生み出した経済損失を回復して、経済を高成長軌道に乗せようとする政策である。
過熱している経済をさらに過熱させるのだから、当然インフレ圧力は高まる。しかし、当時の世界経済は低インフレが定着しており、アメリカのように期待インフレ率が2%に定着している(アンカーされている)国でも、アンカー(錨)が下振れするとの懸念があったほどなので、「行けるところまで行ってみよう」という戦略も許容された。
日本では、黒田総裁の下で異次元金融緩和を行っても2%のインフレ目標がなかなか達成できず、その理由を「デフレマインドの固定化」に求めていた時期なので、「高圧経済」戦略は自然な流れであった。
現在、「高圧経済」を採用している先進国はない。コロナ禍やウクライナ戦争などを通じて世界的にインフレが定着し、Low for Longの時代が終焉したからである。
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