溺れる人を助けようと夫は川へーー。"救助死"で夫を亡くした女性が訴える《水辺の危険と命の守り方》、水難事故は夏だけじゃない

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電話口で事故の場所や経緯を説明されたが、現場周辺は浅いと認識していたため、「沈む」「溺れる」という言葉と結びつかず、気が動転し何度も聞き返すも、当然同じやりとりの繰り返しになった。

「浅い」と思っていた川の中に2メートルから4メートルの滝つぼのような深みと流れがあったと知ったのは事故後のことだった。

事故現場の様子
事故現場の様子(画像:Googleマップをもとに筆者作成)

夫の事故は特に関西圏のメディアで大きく報道された。近隣住民や通夜葬儀の参列者への取材で得た夫の人となりが伝えられ、「善良な若い父親がよその子どもを助けて命を落とした」と美談のように報道された。

どこからか入手した夫の写真や家族構成まで記事にされ大変迷惑だったが、葬儀が終わるとともに「気の毒な事故だった」という結論で一気に終息し、あの騒ぎは何だったのかと唖然とした。

親族にとってはとても美談で済まされるものではない。

「夫の人となりや残された家族について書くのではなく、同様の事故を防ぐための注意喚起を発信してほしい」と後日取材の申し込みをしてきた新聞記者に訴えた。

遺族で話し合い、事故現場の川が浅く見え、対岸まで容易に渡れる状況だったことが子どもたちが川に入った理由の1つと考え「事故の再発防止のため、安易に川に入ることができないよう、柵やロープなどを設置してほしい」と行政の関係機関に訴えた。

しかし大阪府土木事務所からは「河川法に『河川は自己責任の中での自由使用』の原則があり、市民の利用は制限できない」「柵を立てるとしても、川の危険箇所はここだけではなく、設置範囲に際限がないため不可能」「災害時に川が氾濫したとき、柵が下流に流されれば凶器になる」など、良い返事はもらえなかった。

事故から半年経ち、遺族の思いを聞いた当時の茨木市長の鶴の一声により、川の深みを知らせる看板と「ここは水による死亡事故のあったところです」と注意を促す2つの看板が設置された。

川は誰でも立ち入れるが…

筆者のような経験は誰もすべきではない。さまざまな感情が渦巻き、筆者は事故の翌年、大阪大学大学院へ進学。以来、「子どもの事故・ケガ予防」の研究と啓発に力を注いできた。

川での遊びや活動を計画する際、皆さんに知っておいていただきたいのは、第一に「川の深さや流れは見た目と異なることがあるため、安易に入ってはいけない。特に人工物の周辺は川の流れが変わったり深みができたりして危険」ということだ。

これからだんだんと秋に近づいていくが、季節を問わず、泳ぐつもりはなくても川へ足を踏み入れようとする人は多いだろう。そういう時にも決して油断はしないでほしい。夫の事故でも、子どもたちは最初、ブロックの上で遊んでいたとされ、何らかのきっかけで川の中に入っていた。

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