エヴァンジェリカル向け公約を実行するトランプ大統領、6月の米最高裁判決で反トランスジェンダー政策が加速

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トランスジェンダーへのジェンダーに基づく医療行為を禁止したテネシー州法を合憲とした最高裁に抗議する人々(写真:Pete Kiehart/Bloomberg)

トランプ政権の国内政策で不法移民の強制送還と双璧を成すのが、反DEI、反LGBTQといったマイノリティの権利の抑圧だ。反LGBTQの中でも反トランスジェンダーが目を引くが、これはトランプ大統領の最大の支持層である保守派キリスト教徒エヴァンジェリカル(福音派)の強い要望に基づいている。

共和党とエヴァンジェリカルの関係は1970年代に始まる。リベラル派の攻勢で劣勢に立っていた共和党はエヴァンジェリカルという大票田を見つけ、エヴァンジェリカルは共和党を自らの宗教的信念を実現する手段とみなした。

共闘の最初の標的は中絶だった。女性の中絶権は1973年のロー対ウェイド判決で認められた。これに対しエヴァンジェリカルは、出産は神の意思で決まると主張し、その禁止を求めた。一方、共和党も2000年の政策綱領で「憲法を修正し生命の定義を行う」という政策目標を掲げた。具体的には、胎児の人権を認め、中絶を殺人とした。2001年から08年はエヴァンジェリカルであることを表明していたブッシュ(子)大統領の時代だったが、このころはリベラル派の勢力が強く、中絶を禁止することはできなかった

エヴァンジェリカルの主張を実現したのがトランプ大統領である。2022年、トランプ大統領が第1期政権時に指名した判事と保守派の判事が多数を占める最高裁が、「憲法には女性の中絶権に関する規定はない」と、その合法性の判断を州政府に委ねた。ロー対ウェイド判決が実質的に無効になった結果、現在、14州が中絶を完全に禁止し、5州が妊娠後6週間を過ぎた胎児の中絶を禁止している。

トランスジェンダー容認は道徳的退廃

エヴァンジェリカルの次の標的は「トランスジェンダーの権利」の否定である。

エヴァンジェリカルは、『聖書』に書かれていることは神の言葉であり、『聖書』に従って生きるのが正しい生き方だと信じている。神は男性と女性の「2つの性(binary)」を創ったとする彼らに「中間的な性(non-binary)」は存在しない。トランスジェンダーの容認は中絶や同性愛などと同じ道徳的退廃であり、教育現場やスポーツなどでトランスジェンダーの権利を認めることは、女性や子供を危険にさらすことになるとも主張している。

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