夫妻は20代の頃、東京・練馬区で暮らした経験がある。だが、その後は香川県で30年。双子の息子2人は大学、就職と東京にいたため、東京移住によって約5年ぶりに仲山家は一つ屋根の下で暮らすことになった。

「2人が東京で一緒に住んでくれたことがありがたかったです。家賃は息子も払ってくれた。弟は、現在は家を出ていますが、彼らがいなければ家賃の高い東京での生活は厳しかったです」
長野県出身の昌樹さんは手先が器用で、性格は真面目な職人気質。20歳のころに上京してさまざまな職に就いたが、いずれも長続きしなかった。大工、土木、不動産営業、調査会社、駅の売店――、当然収入も安定せずに苦しい生活が続いた。
妻の法子さんと出会ったのはこのように仕事がなかなか定まらず、東京にいた頃だった。2人は通信教育のスクーリング(通信教育の受講生が対面で講義を受けること)で出会った。ほどなくして交際するようになり、スクーリングの終了後は東京と香川での遠距離恋愛が始まった。
「当時、家の近くに10円を入れたら時間無制限で通話できる公衆電話があった。そこで電話するのが楽しみだった。すぐ修理されちゃったけど」(昌樹さん)
そして1987年、24歳のときに結婚。もともと絵を描くのが好きだった法子さんは東京のデザイン事務所に就職。ディスプレーなどを担当し、仕事も充実していたという。
夫婦の“勘違い”で香川に移住
だが、一人の人物が2人の人生を変えた。
法子さんは母子家庭に育ち、香川には家族の後見人的な立場だったある企業の社長がいた。東京に住んでから5年ほど経ったとき、この社長に香川で「事業をやるために香川に戻ってこないか」と誘いを受けた。
法子さんは当時の心境をこう振り返る。
「最初は全く乗り気ではありませんでした。もともと香川の田舎によくあるしがらみが苦手だったんです。ただ、私たちは社長から個別に説得されていて、私は“夫が社長と移住をもう約束してしまっている”と思い込んでいました。夫も同じ思い込みをしていて、結局香川に帰ることになり、その後30年間住むことになったのです」
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