公約実現への焦りで墓穴。犯罪歴ない移民まで強制送還対象としロス暴動発生、政策大転換のうえ敵に塩を送ることに

6月7日にロサンゼルスで起きた暴動は移民関税執行局(ICE)による強引な不法移民逮捕が原因だ。本記事の執筆時点で、死者に関する報道はないが、放火や略奪が起き、逮捕者は約400人と報じられている。市の一部地域には夜間外出禁止令が出された。トランプ大統領は州兵に出動を命じ、さらに海兵隊にも待機命令を出している。その連邦政府による州兵動員については、連邦政府と州政府との間で緊張感が高まっている。政府の一部局をめぐる争いが、保守派とリベラル派の政治闘争へと発展している。
アメリカの歴史は暴動の歴史
まずその背景を見てみよう。
そもそもアメリカは暴動が多い。アメリカの歴史は暴動の歴史と言ってもいいくらいだ。1960年代以降だけでも大規模な暴動が10件以上発生している。1965年にロサンゼルスで起きたワッツ暴動では43人の死者が出た。1968年にはマーチン・ルーサー・キングの暗殺をきっかけに100を超える都市で暴動が発生し、39人が死に、2万人超が逮捕された。
1992年にロサンゼルスで起きた暴動は、黒人が4人の白人警察官に暴行され、起訴された警察官が無罪になったことを受けて起こった。63人の死者、2300人を超える負傷者と1万2000人の逮捕者が出た。損壊した建物は1100棟以上に及ぶ。当時のブッシュ大統領(父)は陸軍と海兵隊を動員して暴動を鎮圧している。
2020年にはミネソタ州で黒人ジョージ・フロイドが警察官に殺害され、50州、2000の都市で暴動が起こった。この暴動で20数人が死亡、1万4000人以上が逮捕された。この暴動を契機に「Black Lives Matter」運動が起こった。人種差別に起因する暴動ではないが、2021年にはワシントンDCで、上院での大統領選挙結果の認証を阻止するためにトランプ支持者が連邦議会に乱入している。
保守であれリベラルであれ、政策に不満がある場合は抗議行動を起こすことが当たり前のアメリカでは、何かの拍子で抗議行動が暴動に発展することがままある。
今回の暴動のカギとなった「不法移民」はアメリカに約1400万人いる。不法とはいっても、移民として正規の手続きをせずに入国したというだけで、その大多数は正業に就き、税金を払い、犯罪歴のない善良な移民である。日本語では「不法移民(illegal immigrants)」と表現されているが、アメリカでは「書類の整っていない移民(undocumented immigrants)」、あるいは「正規の手続きを経ていない移民(unauthorized immigrants)」と呼ばれている。本記事では、便宜上、「不法移民」を使う。
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