公約実現への焦りで墓穴。犯罪歴ない移民まで強制送還対象としロス暴動発生、政策大転換のうえ敵に塩を送ることに
焦点は、ロサンゼルスの治安を守る指揮権はニューサム知事にあるのか、トランプ大統領にあるのかに移った。暴動そのものから離れ、政治的な動きを追ってみよう。
6月7日、トランプ大統領は「ロサンゼルスの無法状態に対処する必要がある」と、2000人の州兵派遣を承認する覚書に署名した。これに対してニューサム知事は即座に「大統領の決定は緊張を高めるだけだ」「大統領の決定は独裁者の行動である」「民主主義は私たちの目の前で攻撃にさらされている」と、トランプ大統領を非難した。これに対してトランプ大統領は「もし州兵を送らなかったら、ロサンゼルスは今、燃えているだろう」と、自分の決定を正当化した。
大統領が知事の同意なしに州兵を派遣するのは異例なことである。22人の民主党議員は「知事は州兵の最高指揮官であり、知事の同意なく州兵を動員することは無効であり、危険である」とする共同声明を発表した。ところが6月9日に、軍当局は海兵隊員700人を派遣すると発表した。
大統領のロス暴動利用に裁判所が待った
同じ6月9日、ニューサム知事とボンタ州司法長官は、トランプ大統領の決定は違法であると連邦地方裁判所に訴えた。12日、連邦地裁のチャールズ・ブライヤー判事(クリントン大統領が指名)は「トランプ大統領は大統領権限を逸脱し、憲法修正条項第10条(憲法によって連邦政府に移譲されていない権限は州に属する)に違反している」という判決を下し、州兵の指揮権を直ちにニューサム知事に返すように命じた。
さらにロス暴動は限定的な地域で起こった事件であり、連邦政府が対応すべき「暴動鎮圧法」が定める「反乱」に該当しないとも指摘している。また、州知事との調整なしに州兵を動員したことも法律が定める必要な手続きを取っていないと判断した。トランプ政権にとって打撃であった。
同日、司法省は連邦控訴裁判所に即時抗告をし、その日のうちに3人の判事(2人がトランプ大統領指名、1名がバイデン大統領指名)は連邦地裁の仮処分の執行を一時差し止めた。この結果、正式な審議が行われるまで、州兵と海兵隊はロサンゼルスにとどまることになった。最終的な判決が下るには時間がかかるだろう。それまでに状況は変わり、裁判の実質的な意味は失われる。
ただ、トランプ大統領にとっては思惑が外れた。ロサンゼルスでの強制送還数増は、リベラル派の抵抗で実現できず、聖域都市潰しも成功したとは言えない。連邦政府の州政府に対する優位性を確保し、大統領の権限を強化することも連邦地裁にストップをかけられた。トランプ政権や保守派が、ロス暴動を利用して、強権的な国家構築を進めようとしたのは間違いない。「王になりたがっている」トランプ大統領にとって、ロス暴動は思い通りの結果をもたらさなかった。
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