公約実現への焦りで墓穴。犯罪歴ない移民まで強制送還対象としロス暴動発生、政策大転換のうえ敵に塩を送ることに
とはいえ、ICEはすべての都市を対象としたわけではない。民主党の支持基盤の州の「聖域都市」と言われる不法移民に対して公共サービスを提供している都市を狙い撃ちしている。聖域都市は、奴隷制度時代に奴隷州から逃亡してきた黒人奴隷の保護から始まった。それが現在では不法移民を保護する役割を果たしていて、保守派は長年、聖域都市を攻撃している。国土安全保障省はトランプ政権の不法移民強制送還を妨害したとして、500の自治体のリストを発表している。
ロス暴動が起こっている最中の6月12日、連邦下院監督・政府改革委員会で聖域州の知事を招いて公聴会が開かれた。共和党議員は「聖域都市政策は犯罪者の不法移民を連邦政府の執行官から守り、アメリカ人を危機にさらしている」と知事たちを批判した。知事たちが「聖域都市政策がアメリカ人に犠牲を強いているとは思わない」と反論すると、共和党議員は聖域都市に支給されている補助金の打ち切りを示唆した。
狙い撃ちされた聖域都市ロス
ロサンゼルスは最大の聖域都市の1つだ。ミラー次席補佐官の命を受けたICEがロサンゼルスを最重要ターゲットとしても不思議ではない。ICEの不法移民摘発は6月6日の早朝に始まった。繁華街、ウエストレイク地区にあるホーム・デポなど人々が集まる商業施設数カ所で執行官が不法移民の逮捕を始めた。
これは、ミラー次席補佐官の発言と符合する。執行官の行動を見ていた労働組合(SEIU:サービス従業員組合)の委員長が覆面をした執行官に殴り倒され、連邦拘置所に送られた。委員長は不法移民ではない。やがて連邦拘置所の周辺で抗議運動が始まった。デモ隊は警察官と対峙していたが、暴力的な行動は見られなかった。
翌6月7日、国境警備隊がホーム・デポの反対側にあるラテン系住民が多く住む場所に終結した。正午に警察官が数百人のデモ隊に向かって催涙ガスを発射、デモ隊からは投石が始まった。
8日、午後に数千人のデモ隊がダウンタウンに終結し、デモ隊の一部が暴徒化し、建物や自動車を襲撃した。夜、ニューサム・カリフォルニア知事とバス・ロサンゼルス市長は「抗議を行うことは適切だが、暴力を振るうことは適切ではない」と、デモ隊に自制を求めた。また、ロス市警の所長は「暴力をふるっているのは執行官に反対する者ではなく、いつも暴力をふるうような連中だ」と、暴力は抗議活動とは関係ない人物によって行われていると発言している。
6月9日、ロス市警は繁華街での集会を禁止すると発表。10日にバス市長は、ダウンタウンの1平方マイルの地域に午後8時から午前6時までの夜間外出禁止令を出した(6月17日に解除)。
緊張が高まる場面もあったが、暴動が起きたのは極めて限られた地域で、市全体は落ち着いていた。一部のメディアは、暴動の場面を過度に強調したり、「内戦が起こる」などと情緒的に報じたりしているが、暴動は鎮静化し、全国に飛び火する状況ではない。
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