公約実現への焦りで墓穴。犯罪歴ない移民まで強制送還対象としロス暴動発生、政策大転換のうえ敵に塩を送ることに

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また、意外なところからトランプ大統領に対する圧力がかかった。6月10日、農業労働者の組合United Farm Workersが声明を出し、農業に携わる不法移民の摘発は、「農業労働者を恐怖に陥れ、農業労働者のコミュニティを分断する連邦政府の政策はカリフォルニアの住民全体に対する攻撃であり、危険な資源の浪費である。無差別な不法移民摘発と混乱に満ちたやり方は公共の安全を脅かす」と、政権を批判した。

『AXIOS』によれば、政府内からもICEの強硬方針に対する批判が出てきた(6月15日、「Trump’s ICE backtrack」)。ロリンズ農務長官がトランプ大統領に電話をかけ、不法移民逮捕の加速は善良な不法移民を逮捕することになり、農業やサービス業での労働者の不足を招くと伝えたと報じている。農業、ホテル、レストラン産業は大きな産業であり、トランプ大統領も対応を迫られることになった。

株を下げたトランプと上げたニューサム

6月12日、ICEの高官は全国の執行官に「農業、レストラン、ホテルでの摘発を保留する」という電子メールを送った。さらに「人身売買、マネーロンダリング、麻薬密輸に関する調査は問題ないが、非犯罪者の追求はしない」と伝えた。不法移民の労働者は全労働者の4.6%、700万人以上を占めている。トランプ大統領も、この3業種での不法移民逮捕を抑制すると決断した。大きな政策転換であると同時に大きな敗北となった。

これとは対照的に、ロス暴動で大きなメリットを得たのはニューサム知事といえる。『Daily Beast』紙は、「ニューサムはトランプ大統領の全国的なICEによる不法移民攻撃に決定的な反撃を始めた。これは民主党の支持層をニューサムに向けさせたように見える。将来の大統領候補として出発したかもしれない」というCNNの担当者の分析を伝えている(6月13日、「CNN Data Guru Reveals Newsom’s Trump Takedown Eclipsed Joe Rogan」)。

トランプ大統領に正面から対峙し、常に冷静な態度に終始したニューサム知事は、混迷する民主党の大統領候補のライジング・スターになったのである。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒業。東京銀行(現三菱UFJ銀行)、東洋経済新報社、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。知米派ジャーナリストとして活躍。

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