"一時的な乱れ"か? それとも"必然"か? トランプ大統領の《歴史的意義》を見極め「日本の針路」を定めよ

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トランプ政策は、第1次政権期(2017~2021年)と第2次政権期(2025年~)で大きく異なっている。

第1次政権時の関税政策の中心は対中関税であったが、これはある意味「理解可能な国家戦略」であり、その点で「歴史の必然」だった。台頭する中国に対してアメリカの覇権を守ろうとする政策であり、1980年代に日本に対して行われた貿易摩擦政策の延長線上に位置づけられるものだ。

しかし、第2次政権における関税政策は、経済的な合理性を欠いている。中国だけでなく、日本、EU、カナダといった友好国に対しても高率関税を課している。

その理由は「アメリカに製造業を呼び戻すため」だとされているが、これは著しく経済合理性を欠いた考えだ。とりわけ「iPhone」などのグローバル製品は、製造プロセスが複数の国や地域にまたがっており、国内回帰は事実上不可能だ。

このような政策をトランプ大統領が本気で信じているとすれば、それは経済メカニズムの理解水準があまりにも低いことを示している。 逆に、信じてはいないが政治的支持を得るためにあえて主張しているのだとすれば、それはポピュリズムにすぎない。いずれにせよ、歴史的な必然によって生まれた政策とは考えられない。

日本はどう対処すべきか

現実の交渉過程に関して報道されていることは、あまりに少ない。例えば、鉄鋼関税問題はトランプ大統領の思惑どおりに進んでいるように見えるが、取引の実態はどうだったのか。報道される内容は断片的であり、日本製鉄とトランプ政権の間で何らかの取引があった可能性があるが、その詳細は明らかにされていない。

この交渉で得をしたのは誰だったのか。「得をしたのは日本製鉄だ」とトランプは言ったが、本当にそうなのか。表面的には、アメリカの鉄鋼労働者とトランプ大統領が得をしたように見えるが、日本の国益はどの程度守られたのか、明確な情報がない。今後、交渉の実態を検証する必要がある。

日本政府に求められるのは、戦略的な対応である。相手が「ディール型」の指導者である以上、こちらもそれに対応する交渉戦略と、世論に説明可能な透明性の高い外交姿勢が必要だ。

トランプ大統領という存在は、アメリカの社会的分断と民主主義の危機を象徴している。その現象を「一時的な乱れ」と見るか、それとも「歴史の必然」と見るかは、今後のアメリカ社会の反応、そして国際社会との関係構築の過程によって明らかになるだろう。そして、われわれは単にそれを傍観するのではなく、その中で自国の戦略をどう定めるかを問わなければならない。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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