例えば中国に対しては、125%まで引き上げた相互関税率を廃止し、当初の34%に戻した。そのうえで、24%の執行を90日間停止し、ベースライン関税の10%を適用するとした。また、EU(欧州連合)に対しても50%の関税を課すと脅したが、実際には交渉の延長を認めている。
こうした行動は、TACO(Trump Always Chickens Out:トランプはいつもビビってやめる)と揶揄された。
このように、トランプ大統領の強硬策は金融市場や交渉相手の反応によって頻繁に後退を余儀なくされており、破壊的な政策も結果的には理解可能なものに落ち着いていくように見える。
これは、トランプ大統領が「恫喝 → 譲歩 → 合意」というパターンで交渉を進める人物であることを示しているだけのことである。つまり、トランプ大統領は交渉のカードとして強い言辞を使っているにすぎず、最終的には合理的な妥協に引き戻されている、という解釈が成り立つ。
このような事例に注目するなら、トランプ氏は特異な政治家ではあるものの、アメリカの制度の基本は依然としてバランスを保っており、市場経済と民主主義制度が最終的には軌道修正を行うであろうことが期待できる。したがって、トランプ現象は「例外的な逸脱」であり、歴史の主流とは言いがたいという評価が可能だ。
「歴史的必然」としてのトランプ
しかし、トランプ大統領の言動や政策は「アメリカ社会の底流にあった不満の噴出」であり、その意味で「歴史的必然」だ、という理解も否定できない。
とくに象徴的なのは、大学や研究機関を敵視する政策に対するアメリカ国民の反応だ。ハーバード大学などの主要大学に対して、ビザの発給停止や連邦補助金の打ち切りなどの方針を打ち出したが、これに対するアメリカ社会からの反発は驚くほど弱かった。
この背景には、プアホワイト層(低所得の白人労働者層)をはじめとする広範な社会階層のフラストレーションがあるからだといわれる。彼らは、自らの経済的没落をグローバリズムに起因するものと捉え、エリート層への反感をつのらせてきた。その受け皿となったのがトランプ氏だ。
この構図で理解するなら、トランプ氏は「異常な存在」ではなく、「ポピュリズムの時代における必然的なリーダー」ということになる。つまり、アメリカ社会が必然的にトランプ大統領を生んだのであり、これは歴史の必然だという解釈が成立することになる。
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