結局、いずれにしても(違う理由で)批判だけをするのでは、与野党間で建設的な議論はできない。そして、困るのは国民である。
その観点からすれば、今般、与党と立憲民主党で、現在の年金制度を改善する策で意見が一致できたことは意義があろう。
では、基礎年金の将来の給付水準の底上げは、どのように行われるのか。
その話をするためには、なぜ底上げをしなければならないかについて確認する必要がある。それは、2024年6月に公表された公的年金の財政検証の結果に基づいている。
2024年の財政検証では、将来の日本経済に関する経済前提について4つのケースを設定して、今後の所得代替率(受け取り始めるときの年金額の、その時点における現役世代の平均手取り所得に対する割合)がどうなるかを示した。
その中で、成長型経済移行・継続ケースと過去30年投影ケースに焦点を当てて議論を進める。
年金のモデルケースは「正規雇用の夫+専業主婦」
2024年度の所得代替率は61.2%である。現行制度では、2017年度以降年金保険料率を引き上げず固定するという方式(保険料水準固定方式)を採っている。
その下で、この61.2%という所得代替率をおおむね100年後でも維持し続けたまま、今後の年金財政を破綻しないようにできるかというと、それは不可能である。特に、高齢化率がさらに上がることが見込まれており、現役世代の人口が減って保険料収入に限りがある状況では、給付水準を高止まりさせることはできない。
そこで、マクロ経済スライドを導入して、人口動態等に即して給付水準を調整する仕組みとなっている。したがって、財政検証での焦点の1つは、マクロ経済スライドを発動して(保険料率を上げない以上)年金保険料収入の減少に合わせて将来の給付水準を引き下げざるをえないが、どの程度まで引き下げれば年金財政が持続可能になるかである。
2024年の財政検証の結果、過去30年投影ケースでは、マクロ経済スライドを発動して所得代替率を50.4%まで下げれば、それ以降は維持できて、年金財政も持続可能となる。
ところが、この所得代替率は、計算上のアヤがある。
(良し悪しは不問として)定義により、所得代替率の分子となる「受け取り始めるときの年金額」は、「20歳から60歳になるまでの40年間に平均的な収入で働いた夫と40年間専業主婦だった妻」が1カ月も欠かさず年金保険料を払い続けたときに受け取れる年金額である。
すなわち、夫と妻の基礎年金2人分と、正規雇用され平均的な収入で働いた夫の報酬比例年金の合計額である。
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