フリードマンとハイエクは、一見説得力のある主張を展開した影響力のある弁論家だった。現代の数理経済学の強みは、仮定にも分析にも高い精度を要求することにあるが、それは弱みでもある。精度を高めるためには簡略化が必要であり、それにより絶対に欠かせない複雑な要素が無視されてしまうおそれがあるからだ。
こうして見ると、(フリードマンが属する)均衡理論の伝統に立つ経済理論家も、(ハイエクが属する)進化論の伝統に立つ経済理論家も、その分析は不完全で不正確であることがわかる。
束縛のない市場は非効率的で搾取的
もっと信頼できる経済理論の予測によれば、束縛のない市場は非効率的で、不安定で、搾取的であり、適切な政府の介入がなければ市場支配力のある企業に支配され、大規模な不平等を生み出すことになる。
また、束縛のない市場は近視眼的で、リスクにうまく対応できず、環境を損なう。さらに、フリードマンが主張したように株主価値を最大化しても、社会のウェルビーイングの最大化にはつながらない。
束縛のない市場を批判する人々によるこれらの予測は、正しいことが立証されてきた。この75年の研究成果に基づいてハイエクやフリードマンの経済学を振り返ってみれば、この2人の理解はまったく正しくなく、2人の研究課題の設定さえ正しくない。それでもこの2人の思想は、これまでの社会に甚大な影響を及ぼし、いまも絶大な影響を及ぼし続けている。
これほど聡明な才能が、どうしてそのような過ちを犯したのか? その答えは簡単だ。フリードマンとハイエクは、偏見のない公平な観点からではなく、イデオロギー的な観点から経済を分析した。束縛のない市場や既存の力関係(所得や富の分配に反映されているような力関係)を「擁護」しようとした。資本主義が実際にどう機能しているのかを理解しようとしたのではない。
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