「そして、喜多川歌麿は蔦重のもとを去った」 歌麿をスターの座に押し上げた”蜜月時代”の傑作美人画と最強タッグ決別の背景
寛政3年(1791)、山東京伝の洒落本・黄表紙を刊行したことにより、罰金刑を科された蔦屋重三郎(財産の半分を没収されたという説もあれば、それほどではないとの説もあります)。そうした苦境にあった重三郎にとって、妓楼の経営者を後援者として、作品を刊行していくというやり方は効率的ではあったでしょう。
歌麿をスターの座に押し上げた傑作

この頃、歌麿は現代においても傑作と呼ばれる作品を描いています。「婦人相學十躰」「婦女人相十品」などの作品です。
これらの作品は「種々の階層、職業にある女達の人間性の異相を描き分けようと試みた野心作」「人間の内面的個性の表現は、山東京伝の洒落本など文学の重要なモティーフであるが、歌麿と重三郎はそれを絵画によって実践してみようと意図した」(松木寛『蔦屋重三郎』講談社、2002年)と評されています。
「婦人相學十躰」の絵を見ていると面白いことに気が付きます。「浮気之相」「面白キ相」というように、女性の容貌についてコメントが付されているのです。
「浮気之相」に描かれた女性を見てみると、浴衣姿であり、左の乳房が露わになっていて、色っぽい感じです。浴衣姿の湯上りの美人が肩に掛けた手ぬぐいで手を拭きながら振り返る様を描いています。色っぽい美人ということで「浮気之相」などと定義づけられたのでしょうか。

「面白キ相」と名付けられた女性は、鏡で自分の顔を見ています。その女性の表情は、口がちょびっと開いており、確かにユニークです。

他にも「団扇を逆さに持つ女」「指折り数える女」「提灯を持つ女」「髪剃り美人」「髪すき」「煙管を持つ女」「艶書に妬む女」「かねつけ」(お歯黒を付ける女性)などが「婦人相學十躰」として描かれています。
そのなかで「煙管(きせる)を持つ女」と「髪すき」に描かれた女性が「浮気之相」の女性と同様、乳房が露わになっています。

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