「女性が家事だけに専念できる余裕は、この国にはもうない」と言われても…。ドラマ「対岸の家事」令和に“専業主婦”を丹念に描く意義
「“家族のための家事”を仕事にすること」を何より大切に思っている彼女は、自分が心地よくいられる生き方として、専業主婦を選択している。あくまで“家族のための家事”であるところがポイントで、その信念には職業的なプロ意識が感じられる。
専業主婦が少なくなった時代に肩身の狭い思いをすることがあっても、その一点は変わらない。

「手に職があるのに」と言われても…
とはいえ詩穂も一人の人間で、自分の生き方に迷いがないわけではない。
そもそも彼女が専業主婦を選んだ理由は「2つのことを同時にできないから」だと序盤で語られるが、その考えに至った根本は過去にあった。母を亡くした高校時代、家事を父に背負わされて学業との両立に苦労した経験に基づいており、どこからが彼女の自己選択かを判断するのは難しい。
また、厚労省で共働き支援をしている中谷の同僚から「手に職があるのに、復職しないなんてもったいない」(詩穂は元美容師なのだ)と言われたときは、専業主婦の無職扱いにモヤモヤしつつ、仕事復帰の選択肢を考えることもあった。
しかし、それでも詩穂は最終的に、変わらず専業主婦でいることを選ぶ。自分の家事をちゃんと受けとってくれる今の家族が一番大事なのだと、晴れやかな表情で語っていた。
自分のありたい自分をわかっている人の姿は美しい。専業主婦でなくても胸打たれたが、彼女に勇気づけられる当事者はきっとたくさんいることだろう。
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