「女性が家事だけに専念できる余裕は、この国にはもうない」と言われても…。ドラマ「対岸の家事」令和に“専業主婦”を丹念に描く意義
専業主婦の立ち位置がそうであるように、時代が変われば、一般的とされる価値観も変わる。ただ生きたいように生きている個人が、あるときは模範的だと世間から持ち上げられ、あるときは物珍しく見られて風当りがつらくなることもある。
だから結局のところ大切なのは、自分にとって心地がいいと言える生き方を、誰よりも自分がわかっていてあげることではないかと、詩穂を見ていると感じる。専業主婦でいられる彼女は恵まれている、と思う人へのカウンターとなるエピソードも9話では描かれた。このドラマはどこまでも隙がない。

時代と価値観の流動性といえば、“ロールモデル”を議題に上げた6話のエピソードも印象深かった。
時代が求める「ロールモデル」に振り回される女性たち
あるとき礼子の会社で講演会が予定され、ロールモデルとなる社員を登壇者として選出する話が持ち上がる。そこで礼子は、かつて同じ部署でお世話になった先輩であり、社内で女性初の管理職でもある陽子(片岡礼子)を推薦。
しかし男性の部長から「彼女(独身だから)、ワークはあるけどライフはないでしょ」と突き返されてしまう。それどころか、むしろ今の時代に合っているのはワーキングマザーである礼子のほうだと逆指名を受けることになるが、当然本人は納得いかず……という展開が描かれた。
結婚して女性が家庭に入るのが当たり前だった時代から、女性の社会進出が進み、やがてワーク・ライフ・バランスが重視される時代へ。はたらく女性を取り巻く環境は、特に社会の価値観とともにめまぐるしく変化してきた。
このエピソードの中で詩穂が口にした、「ロールモデルという言葉で誰かに役割を押し付けてる」という台詞が突き刺さる。耳障りはよい言葉だが、全体の代表のような形で押し付けられる場合はいい迷惑ということだ。

自分が思う生き方を選んだとしても、あのとき選ばなかった道への後悔が頭をよぎることは誰だってあるだろう。本作はその迷いをも決して否定はしない。
ただそんなときは、「体験できなかったことも、一つの体験」という5話の名言を思い出すのもいいかもしれない。
そのように、後々自分を救ってくれるような言葉がたくさんあるドラマだった。残すところあと1話。最終話が待ち遠しいが、名残惜しい。
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