「在職老齢年金」見直しでシニアの労働意欲は増すか。年金制度改革は二転三転したが…

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

22年度末時点で働きながら年金を受給する65歳以上の人は約308万人。そのうち約50万人が当時のボーダーラインの47万円を超え、年金が減額されていた。その総額は年間4000億円以上だ。62万円超に引き上げられると、相当額の給付増が見込まれ、減額総額は圧縮される。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、「ボーダーラインに届くような人たちは所得のためではなく、生きがいのために働いている。そのため、働き控えの解消にどれだけつながるのかは疑問だ」と指摘する。

政府はこの財源の穴埋めとして、厚生年金保険料を支払う所得基準を見直し、主に現役世代の高所得層の負担が増えることになる。

木内氏は、「給付額を減らしていくだけでは年金制度は実質的に成り立たなくなってくる。余裕のある現役世代に負担してもらう発想自体は妥当だ」と評価したうえで、「現役世代は今の負担は増えても、その分、将来もらえる年金が増える。政府は、こうした長期的な視点をもっと理解してもらうよう努力すべきだ」と語る。

基礎年金底上げの行方

一方、今回の年金制度改革で最大の焦点は、「基礎年金の底上げ」をどうするかだ。

基礎年金の底上げとは、厚生年金の積立金を財源として基礎年金を拡充しようとするもの。ただ、そうすると厚生年金の給付が最大で月7000円減る設計となり、厚生年金加入者らから批判が出るおそれがある。参議院選挙を前に与野党がドタバタ劇を演じ、底上げ実施の判断は先送りされることになった。

前出の木内氏は「社会全体から見れば厚生年金で基礎年金を支えることは必要。それが社会保障であり、公的制度だからだ。現状、基礎年金の支給額は満額でも月額7万円弱とそうとう厳しい。これでは年金制度として確立されていると言えない」と語る。

今回は、将来の底上げの明記を求める立憲民主党の案を自民党が受け入れることで決着が図られるもよう。選挙を前にした近視眼的な発想では、信頼に足る年金制度の構築は難しいだろう。

同じ特集の会員限定記事を読む

森 創一郎 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事