米・ドーピング公認大会「エンハンスド・ゲームズ」はアスリートを破壊に導く《人体実験》でしかない――五輪銀メダリストと医師が語る"怖さ"
その効果は絶大で、2004年8月にはアメリカの『ニュー・イングランド・ジャーナル・オフ・メディシン』には、「汚れた栄光―― ドーピングと運動パフォーマンス」という論考が掲載され、「パフォーマンス向上薬の効果は、現代スポーツ科学が提供するあらゆる非薬物的手段(特別なトレーニング法、栄養管理、バイオメカニクスなど)をも凌駕する。すなわち、薬物を使用する一部のアスリートは、使用しない自然な人間の限界を超えた“異種”のアスリート集団を形成し、スポーツの倫理と公正性を脅かしている」と、警鐘を鳴らした。
東ドイツの秘密記録には、「(筋肉増強剤の)アナボリックステロイドは、100メートル走で最大0.7秒、400〜1500メートル走でも数秒単位で記録を縮めることが可能で、投擲(とうてき)種目では数メートルから十数メートルの伸びが得られた」と記されている。
ドーピング前後で記録が大きく変化した有名な例として、陸上のベン・ジョンソン選手などが挙げられる。


ドーピングの指定薬剤は3種類
現在、ドーピングに指定されている薬剤は、エリスロポエチン、アナボリックステロイド、成長ホルモン(インスリン様成長因子を含む)の3種類だ。
エリスロポエチンは赤血球の産生を促進し、酸素運搬能力を高め、持久力を向上させるため、長距離走や自転車競技などでの、アナボリックステロイドは筋肉量を増やし、筋力を高めるため、ウェイトリフティングや投擲系の競技などでの使用が多かった。
一方、成長ホルモンは、“回復・若返り系”とも呼ばれ、疲労からの回復を促進するとともに、トレーニングで傷ついた筋肉を再生し、骨を成長させる。このため幅広い競技で使用されていた。
今回、エンハンスド・ゲームズで採用される競技は、これまでドーピングが有用とされていた競技ばかりだ。主催者の意向がわかる。
ドーピングの問題は、競技の公平性を損ねることに加え、アスリートの体を傷つける点にある。前者については改めて述べる必要はないが、後者では数多くの事例や研究結果が報告されている。
古くは、1967年のツール・ド・フランスでイギリス出身の選手トム・シンプソンが、アンフェタミン中毒の末に死亡したケースが有名だ。猛暑、過酷な登坂、胃腸障害が重なった結果とされている。
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