年収ランキングの常連で"254億円寄付"でも話題になった「キーエンス」はそもそも何がスゴいのか あえて"キラキラしない"経営哲学の神髄
キーエンスのビジネスモデルは、故・野中郁次郎・一橋大学名誉教授が構築したSECI(セキ)モデルに通じる。言語化しにくい個人の知識や経験(暗黙知)を組織全体で共有しデータやマニュアルなどの形式知に変換することで、新たな発見を得る知識創造プロセスを実現している。この循環がキーエンスの競争力を支える要因になっていると考えられる。
一方、表に出ていない暗黙知がたくさんある。その1つが、「キラキラしない美学」である。
キーエンスの強さに要因について書かれた著書が数冊上梓されている。これらの中でも、学術書(経営学、技術経営)ながら比較的読みやすい筆致で示唆を与えてくれる著書としては、延岡健太郎・大阪大学名誉教授(現・同志社大学特別客員教授)の『キーエンス 高付加価値経営の論理―顧客利益最大化のイノベーション―』(2023年3月、日本経済新聞出版)をお勧めしたい。「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」という理念を掲げる同社について分析している。
近年、SNSの普及が拍車をかけ、「キラキラ社長」たちは、あらゆるデジタルツールを駆使し、これでもか、これでもかとPRしている。まるで女優のポートレートかと思われるようなカバー写真を披露しているスタートアップの女性社長もいる。今や、謙譲の美徳を重んじていた日本でも「目立つが勝ち」といった価値観が台頭しているようだ。
「キラキラ社長」と言わないまでも、昨今、証券市場では非財務情報の開示が重要と言われ、ジャーナリスト、アナリストを対象にした会見にとどまらず、メディアの個別取材にも積極的に対応するCEO(最高経営責任者)が増えてきた。
だが、キーエンスには今後もキラキラしないことを望む。上場企業として、経営や製品のPRにとどまらず、不祥事まで含めて適切な情報開示をし続けなくてはならないが、「なぜ、あの会社があんなに儲かっているのかわからない」企業として成長し続けてほしい。
過剰分析に走りすぎてはいけない
キーエンスは社名の由来である「Key of Science」を標榜し、企業活動をデータで科学的に捉え、合理的な判断をしてきた。そのデータ分析ノウハウを生かし、「データアナリティクス事業」を強化している。
しかし、同社の経営陣は、頭がいいはずのヨーロッパの理性人たちが大義なき戦争に進んでしまったのは日常の数学化・数値化が原因だ、とする現象学者エトムント・フッサールの見解にも耳を傾けてはいかがか。同様に、前出の野中教授も、日本企業がオーバー・アナリシス(過剰分析)に走りすぎている点を問題視していた。
データサイエンス、AI重視の傾向が強まってきている流れの中で、このような意見は排除されがちだが、暗黙知を再考すべきではない。キーエンスには簡単には模倣できない「経営の芸」を磨き続けてほしい。「経営の技」だけでは勝ち残れない。この心得は、日本企業復活を考えるうえで各社共通の課題でもある。
(一部敬称略)
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