年収ランキングの常連で"254億円寄付"でも話題になった「キーエンス」はそもそも何がスゴいのか あえて"キラキラしない"経営哲学の神髄
だが、長者番付では毎年上位にランクインし、放っておいても注目される。「フォーブス」の長者番付(2024年)によると、滝崎氏の保有資産額は約216億ドルで、日本では、1位の柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長、2位の孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長に次いで3位。
日本を代表する長者の滝崎氏は、代表理事を務めるキーエンス財団に、保有している自社株、745万株(時価3900億円相当)を寄付したことで話題を呼んだ。この事実はメディア(「日本経済新聞」2022年3月25日付朝刊)が報じたことで明らかになったが、自ら吹聴するような振る舞いは見られなかった。まさに、「陰徳」が信条であるかのようだ。キラキラ社長とは真逆の「堅実無華」な経営者だ。
「陰徳」といえば、キーエンスのキラキラしない企業文化が反映されているのかと思いたくなる美談が、最近、話題を呼んだ。キーエンス創業期に入社した元社員で技術の責任者だった岡本光一さん(77)と夫人の明美さん(75)が、老朽化した宝塚市立病院の建て替えのために250億円と医療機器購入費として約4億円を寄付したのだ。
キーエンスに根付く2つの関西魂
この背景には関西発祥の2つの経営の精神がベースになっていると考えられる。1つは、伊藤忠、丸紅、住友などのルーツである近江商人の、売り手よし、買い手よし、世間よしとする「三方よし」の3つ目にある地域社会貢献である(同志社大学名誉教授の末永國紀氏によると、「三方よし」という言葉を近江商人の経営と結び付けて言うようになったのは、比較的最近のことだという)。
もう1つは、「儲かってまっか」「ぼちぼちでんな」と言葉を交わす大阪商人のあいさつである。儲かっていても儲かっているとは言わない、キラキラしていては儲かっていない相手を傷つけ、場合によっては、商売で損をするという潜在心理が隠れているようだ。
ところが、多くの日本企業はキラキラしようとした。とくにBtoC企業にその傾向が強い。これは消費者向け商品を扱っているという特性上、仕方がないが、そのリスクをうまくマネジメントできていないようだ。
成長しているとき、調子に乗って大型(追加)投資をする。シェアトップ、上位を狙い、莫大な販促費をかける。キラキラしている(目立つ)がゆえ、これは儲かるぞと、外国企業も目をつける。労働コストが安い国の企業が、模倣の戦略を用いて、あっという間に追いつき、追い抜く。まさにアメリカの経営学者クレイトン・クリステンセンが言うところの「イノベーションのジレンマ」の罠にはまった。
キーエンスと同じ大阪に本社を置く、三洋電機、シャープは一時キラキラしたが、経営破綻した。そして、パナソニック(現・パナソニック ホールディングス)も同じ轍を踏んだ。今、このサイクルから抜け出そうと悪戦苦闘している。
セコム創業者の故・飯田亮氏は、「なぜ、あの会社があんなに儲かっているのかわからない、と言われる企業にならなくてはだめだ」と話していた。まさに、キーエンスはこのことを実践している。
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