年収ランキングの常連で"254億円寄付"でも話題になった「キーエンス」はそもそも何がスゴいのか あえて"キラキラしない"経営哲学の神髄
急成長、高収益、高収入企業で激務はつきものだが、激務の定義は働く人たちの理解の仕方によって変わる。もちろん、キーエンスの業務を激務と感じて辞める人もいる。一方、仕事を通じて責任、達成感を感じ、自身が成長するための学びを与えてくれる職場であり、さらに高い報酬が伴えば、士気が高まる人も少なくない。
高収入が話題になるキーエンスだが、ほかの要因も組み合わせてモチベーションを高めようとしている。このことは結果的に経営学の理論を実践しているといえよう。
古典的理論だが、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグは、高次の欲求を追求する者に対しては、給与や人間関係といった「衛生要因」を改善するだけでは動機づけにつながらないとし、達成感や責任などの「動機づけ要因」を改善する必要があると論じた。
キーエンスでは、達成感を実感できるよう、営業利益の一定割合を社員に還元する業績・待遇連動型の「業績賞与」を導入。社員1人ひとりが付加価値創出を意識し、経営参画意識を持って日々の仕事に取り組むように促している。
だが、単純な成果主義ではなく、成果と同様にプロセスも重視する。そのプロセスにより、好成績をあげた人を高く評価する制度を導入した。
高評価が下されたプロセスは全社で共有する。こうすることで、自身の働きが全社的に認められたという承認欲求を満たす。さらに、会社全体の成果を最大化しようとする意識付けにもなる。
創業者・滝崎武光氏の哲学
こうした考え方の基盤になっているのが、創業者の滝崎武光氏(現・取締役名誉会長)の「頭は冷静に、心は情熱的に」と表現している経営思想である。キーエンスでは、社員は成果主義で冷静に評価されるが、情熱を燃やすような工夫も成されている。
キーエンスの営業職は、1人の営業担当が一定の地域を担当し、そのエリアのマーケット分析から戦略立案、実行に至るまで、すべてを任せる「テリトリー制」を採用している。入社して半年後から自分のテリトリーを任され、責任感を持ち自らが考えて行動することで成果や成長につなげ、大きなやりがいや達成感を味わえるようにした仕組みだ。
滝崎氏は社内では名誉会長となった今も、創業者として事実上のトップであり続けている。社内ではキラキラしているが、社外ではいまだに目立たぬ存在だ。79歳の今日に至るまでほとんど表に顔を出したことがない。
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