年収ランキングの常連で"254億円寄付"でも話題になった「キーエンス」はそもそも何がスゴいのか あえて"キラキラしない"経営哲学の神髄
JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)と呼ばれる伝統的な日本企業の価値観からすれば、このような顧客に密着した営業を行うには、接待にさぞかし多くの時間と金をかけているのでは、と邪推するかもしれない。ところが、実態は実に合理的である。
それを物語っているのが、証券会社の元キーエンス担当者から聞いたエピソードだ。
「一般的にはわれわれの1回の面談は1時間~1時間半となっていますが、キーエンスは30分単位でした。いざ面談が始まると『まず結論を言ってください。結論を持ってきていないのなら、今日はここで打ち切りましょう』と言われて、10分で追い出されてしまったこともあります。決して当社が出禁・塩対応されていたわけではないので、次の面談のアポはスムーズに入れてくれました」
限られた時間内に濃密な内容のコミュニケーションをするという姿勢は、オフィスの造りにも反映されていた。この証券会社社員は今も「あの面談室を思い出す」という。
「大阪本社の社屋は近代的なビルで、応接スペースの壁には化石がちりばめられたようなデザインになっていました。『めずらしいデザインですね』と感想を漏らすと、『グズグズしていると化石になってしまう、という意味です』と含意を説明されました。面談室のいすも長くは座っていられない形でした」
このエピソードの背景には、時間は最大の経営資源だと考え、付加価値を「1人・1時間あたり」の値に落とし込む「時間チャージ」という概念がある。これを用いて、外部に支払う費用だけでなく、時間も含めた費用対効果を可視化し、より付加価値の高い仕事に費用と時間を投資するために客観的判断ができるようにしている。
キーエンスは本当に"ブラック"なのか
こうした緻密な経営管理の実態を知るにつけ頭に浮かぶのが、「給料が高いがキーエンスはブラック企業」という噂である。
就職活動の時期になると、「給料が高そう」という噂を耳にした大学生たちがキーエンスの会社説明会に大挙押し寄せる。実際、競合他社と比べてもダントツの高報酬である。平均年収は、2024年3月期の有価証券報告書によると2067万円。入社数年後には1000万円を超え、30代で1500万円以上、40代で2000万円以上の年収を得ている従業員も多い。
キーエンスは高収入ゆえ、「30代で家が建ち、40代で墓が建つ」と揶揄されることもある。この文言だけを真に受けると実態が見えてこない。
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