極寒のノモンハンの川で”魚獲り”。召集令状を受け中国東北部へ出征した著者が実際に経験した「巨大魚」との死闘
意気揚々と帰営した後、私たちは何よりも先に5本の巨大魚の体長を測ってみた。結果は、一番小さいもので1メートル60センチ、次は2メートル20センチ、その次が2メートル40センチ、さらに2メートル70センチ、最も大きいのが2メートル80センチで、その胴回りは、なんと2メートルもあった。
これらの巨大魚のことを現地では「興安マグロ」と呼ぶそうだが、私の目にはやはり、北海道に棲む淡水魚の王者イトウとしか見えなかった。
巨大魚の味
荷造り台に一本の巨大魚を乗せ、周りの者に手伝ってもらいながら私はその背に包丁を入れて身を開いていった。
驚いたことに、切り開く際、刃物の先がガリガリと背骨に当たると、尻尾がバタン、バタンと動いた。そして半身に開いたとき、魚肉のあちこちがピクピクと小刻みに震えるのである。まるで、皮を剝いだ後のマムシの肉のようだ。なんだか気持ちが悪いとか、肉が薄いピンク色で旨そうだなどと周りからさまざまな声が聞こえてくる。
「林、醬油を少しくれ」
と言うと、同じ二等兵の林が、
「よし、ちょっと待ってろ」
と応え、すぐに醬油を皿に入れて持ってきた。身をひときれ切り取って醬油につけると、ツツーと油が表面に広がった。一口、食べてみた。旨い。またひときれ口に入れた。脂がのっていて、こたえられない。
「旨いぞ、これは! みんな、味見してみろ」
その声につられて、皆、一斉に生唾を呑み込んだ。私は片っぱしから刺し身をつくり、それを味見した皆が我も我もと手伝ってくれたおかげで、夕刻までに部隊全員に刺し身の大盤振る舞いをすることができた。
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