蒲田から蒲田へ「たった800m」の新線に集まる期待 渋谷~羽田空港「新空港線」メリットと実現への課題
「新空港線」によって徒歩移動が解消されると、以下のような移動時間の大幅短縮が実現する。
・東急・自由が丘駅~京急蒲田駅間:約37分→約15分(約22分短縮)
さらに「新空港線」の開業とともに東急東横線・多摩川線からの乗り入れが予定されており、「渋谷~京急蒲田間の直通列車」が走るという。京急蒲田駅での乗り換え1回で渋谷~羽田空港間を移動できる新ルートは、多くの訪日客・インバウンド観光客に利用されることとなるだろう。
この「新空港線」は、800mの鉄道建設で約1250億円の整備費用を必要とする。東京メトロの鉄道新線「南北線・品川延伸(2.5km・約1310億円)」「有楽町線・住吉延伸(4.8km・約2690億円)と比べても、かなりの“コスト高“だ。にもかかわらず、大田区は少なからぬ費用負担を早々に表明し、「新空港線」建設に何とか道筋を付けようとしていた。
なぜ、大田区は「新空港線」建設を熱望し、なぜ今まで建設が実現しなかったのか。大田区や東急電鉄(以下:「東急」)などの動きを振り返り、それぞれのメリットを探ってみよう。
1980年代から存在した新線計画
大田区内を貫くJR京浜東北線・京急本線などの鉄道はほとんど「南北移動」のためのもので、東西方向の鉄道は東急多摩川線と、京急空港線のみ。しかし東急・京急は徒歩での乗り換えが必要で、大田区内の東西移動は全般的に面倒臭い……。
この不便を解消するために、2つの蒲田を繋ぐ「蒲蒲線」建設の調査費用に大田区が500万円を投じたのは2002年のこと。
ただ鉄道建設の構想自体はもっと前からあり、のちに「住専問題」で世間を騒がせた不動産会社「桃源社」が1988年に本社ビル(現在の大田区役所)を建設する際には、区から受けた「ビルの地下に鉄道を通すスペースを残してほしい」という要請に従ったという。(2004年2月13日・朝日新聞東京地方版より)
ただ当時は、鉄道建設の意義はあくまでも「乗り換え不便の解消」「区内の東西移動の強化」であった。
しかし大田区内のメリットだけで1000億円以上の建設費用を調達することは難しく、「『蒲蒲線』という名称では蒲田エリア内だけの話と思われる」との懸念もあり、2007年に区民協議会で提案された「新空港線」という名称が使われるようになった。
いわば、「新空港線」は先に大田区内の移動事情ありき、空港アクセスは後付け、といった形で建設が促進されてきたのだ。
一方で東急は、羽田空港が2010年の拡張で再び国際空港化したあたりから、訪日客を渋谷に取り込める「新空港線」に関心を寄せるようになる。
東急は「インバウンド」という通称が定着する前から、自社のホームエリアである渋谷への訪日客取り込みに力を注いできた。2010年の時点ですでに「訪日外国人の23%が渋谷を訪れる」(東急総合研究所調べ)状態であり、2023年に閉店した「渋谷東急百貨店本店」跡地に、訪日客・富裕層をターゲットにした外資系ホテルを誘致するなど、積極的なインバウンド誘客の姿勢は変わっていない。
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