さらに、部隊の能力は低下する。少なくとも2割方の隊員が常時不在になるからだ。残る8割でも本来の仕事はできないこともないが、それを2週間は続けられない。
2001年に実施されたテロ対策では上記のようになった。アメリカの同時多発テロではアメリカ海軍横須賀基地に合わせて海上自衛隊横須賀基地も実働の自隊警備をかけた。テロの当日と翌日には、中央の指示により目視による対空監視までした。
そして2週間が経つ頃には、息切れして警備の水準を下げた。総監部や造修補給所の陸上勤務者で警備を強化したため、肝要の日常業務に支障が出たからである。横須賀の人数は呉、佐世保、舞鶴と大差はない。それでいて業務や行事は他の基地よりも多い。そこから人数を抜けばそうなる。
演習の自隊警備でも、指揮官や幕僚が乗り気だとたいへんなことになる。将官は勝ちにこだわる傾向が強い。昇任も出世競争での勝ちに執着した結果だ。
だから演習でも陸自レンジャーとの勝負には熱心になる。幕僚もアピール好きだと始末に終えない。「ありとあらゆる事態に対処する」と豪語して過度警備を強要してくる。
25年前には、将官指示で人垣を作ったことがあった。「レンジャーの侵入は絶対に許すな」との指示により、隊員が重要施設を人間の鎖で囲った。
また、幕僚が「バルカン砲を出せ」と言い出した話もあった。当時の防空警衛隊が持っていた対空砲で水平射撃をする話だ。断った旨の報告の後に「巻き添えで隊員100人が死ぬ」や「たかが演習の勝ち負けで民家方向に砲身を向けるマヌケ」と皆でこの提案をした幕僚を酷評した。
真剣に考えての自隊警備なのか
といった具合に、いずれにせよ自隊警備に力を注ぐとたいへんなことになる。肝心の基地機能が低下する訓練なのだ。航空基地なら飛行機の整備員が警備ばかりで、整備が進まない状況となる。
これでは本末転倒だ。自隊警備は基地機能を維持するために実施するのに、その自隊警備に熱心となってしまうと、かえって基地機能を損なうのである。さらに、今の自隊警備には根本的な問題もある。本当に起きる事態なのか、それを真剣に考えて実施しているようには到底、思えないのだ。
はたして、レンジャーに相当する精鋭部隊が自衛隊基地を襲撃する事態は起きるのか。実際にはありえない。日本の状況や敵国の立場からすればそうなる。
それは、第1には、準備が難しいことである。特殊部隊の人選や日本に潜入する段階から実施は困難だ。日本社会で活動できる人員はなかなか揃わない。一見して日本国民と区別がつかない、ヤマト民族やアイヌ民族と同じ顔つきであり、そのうえで母語水準の日本語話者が必要となる。それを特殊部隊から、条件を緩和しても軍隊のなかから揃えなければならない。
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