自衛隊「対敵特殊部隊」訓練が非現実的な理由 特殊部隊が侵入できない日本の現実を考えていない

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顔つきが相対的に似ている中国や北朝鮮でも、10人を揃えられるかどうかだろう。おそらくはロシアはさらに少ない。東アジア的な容貌の人員はいくらでもいるが、流暢な日本語話者を選抜することは無理だ。

日本への潜入も厄介である。なによりも四周を海に囲まれており陸路での潜入はできない。不審船からの上陸や軍用輸送機からのパラシュート潜入も難しい。海上保安庁、海自、航空自衛隊、水産庁、税関、漁民らに監視されているためだ。他国とは事情が違うのだ。

自衛隊は、特殊部隊対策で韓国の例をよく持ち出す。一時期、陸自が推進していたゲリラ・コマンド対策では北朝鮮工作員の侵入事件を挙げて必要性を強調していた。

ただ、韓国とは事情が違いすぎる。日本は同一民族の分断国家ではないし侵入容易な陸上国境もない。

日本社会の監視力を無視したもの

第2は、日本の治安維持力に封殺されることである。

演習の想定では、敵国の特殊部隊は基地外壁までは自由に移動できることになっている。武器に加えて、塀を乗り越えるための脚立や、フェンスの金網を切断するボルトカッター、基礎の下に抜け穴を掘るスコップほかの道具を公然と携えて接近できる設定だ。

これはあまりにも非現実的な与件設定だ。警察をはじめ、ほかの治安維持力を完全に無視している。

戦争となると、警察も全力警備を始める。「ノビ(窃盗)やタタキ(強盗)では国は滅びない」と他の業務をさしおいてでも全力で警備にあたる。

自衛隊基地を含む政府施設やインフラに警官を配置し、駅や港、道路の至るところに検問を設ける。ちなみに、警察官数は26万人で、陸海空の自衛隊員数22万人よりも多い。

よくできたもので、警備に全力投入しても何も困らない。戦時下は国民も緊張状態に入るので、治安は改善する。例えば、香川県は昭和16年(1941年)末の太平洋戦争開戦から半年間は犯罪件数がゼロだった。

加えて、国民による強力な相互監視も始まる。日本はムラ社会であり、不審者には敏感だ。非常時には勝手に監視を始める。これはコロナ流行時に自然発生した、他県ナンバー狩りが示すとおりだ。

この状況で、敵国の特殊部隊は自由な活動ができるだろうか。不審な荷物をもつ4人連れ、5人連れが鉄道や道路にある検問や監視をすり抜けて自衛隊基地まで到達するだろうか。

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