人が好きだけど人が怖い。矛盾を抱えたまま暮らしていた頃、町中で高校時代のクラスメイトを見かけた。明るい人柄で人気のあったアキちゃん(仮名)で、弘子さんはひそかに憧れていた。
「勇気を出して声をかけたらビックリされましたが、私のことを覚えていてくれたんです。それから連絡先交換をして、劇団員だったアキちゃんが出演していた演劇を観に行ったりして仲良くなりました」
39歳のとき、アキちゃんが埼玉県内の男性と結婚することになった。自分も行動するべきだと思った弘子さんはマッチングアプリに登録。3人ほどと会ったが、「いいな」とは思えずに音信不通になることが続いた。対人関係に苦手意識が強い弘子さんにとって、共通の知り合いが誰もいないところから知り合うアプリはハードルが高すぎたのかもしれない。
アキちゃん夫婦がキューピッド
そこでアキちゃんが手を差し伸べてくれた。夫の中学校時代の同級生で「いい人」がいるという。それが真一さんだった。
「でも、その頃に私は20年ぶりに正社員になれたところでした。地元にあるメーカーに雇っていただき、とてもよくしてもらっていたのです。主人(真一さん)は飲食店なので休みが合わず、紹介を断わってしまいました」
3年後、弘子さんは退職をする。やはり正社員として毎日働くことには体がついていかず、その頃に足を悪くした母親を車で病院まで送り迎えもしなければならなくなった。父親は高齢を理由に運転免許を返納している。
「アキちゃんが『じゃあ、彼に会ってみない?』とまた声をかけてくれたんです。主人に会ってみたら、穏やかで優しそうな人で……。すぐに付き合い始めました」
真一さんも弘子さんを見て「可愛い」と思ったと明かす。20代のときに恋人を大事にできなかったことに悔いがあり、今度付き合った女性にはとにかく優しくしようと決めていた。結婚まで2年間もかかったのは借金が残っていたからだ。
「付き合う前に借金があることを話してくれたので誠実な人だなと思いました」
と言う弘子さんのほうは病気について明かした。薬の影響もあるので子どもは望めないことも。真一さんが「付き合ってください」と言ってくれたタイミングだった。
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