北朝鮮の盟友・キューバと韓国が国交樹立したワケ 「塹壕を共有する仲」を破った韓国外交

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【解 説】

社会主義国として親密な関係を続けてきた北朝鮮にとって、韓国がキューバと国交を結んだことは相当な衝撃だろう。北朝鮮とキューバは「塹壕を共有する」仲として関係が深い。

故フィデル・カストロ議長(1926~2016年)も1986年に訪朝し、故・金日成(キム・イルソン)主席(1912~1994年)に対し、「一つの朝鮮だけが存在する」と述べ、金日成氏への支持を強く表明したことがある。

カストロ議長も訪朝

また、キューバがアメリカと激しく対立していたとき、金日成氏が小銃など大量の武器を供給したという話がある。カストロ議長が死去したときには、平壌をはじめ北朝鮮国内で丁重に弔ったときには話題になったほどだ。1988年のソウルオリンピックの際には、キューバは参加をボイコットしている。

北朝鮮とそのような関係を築いてきたキューバと、韓国が国交を再開することは「北朝鮮にとって長い友人を韓国側に引き寄せたことは相当な意味がある」(韓国・外交省関係者)。

韓国は2000年からしばしば、キューバに国交正常化を直接求めてきた。それ以来、まずは経済・文化面での交流を深めてきた。2016年には当時の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相がキューバを訪問し、関係改善への大きな一歩を踏み始めた。

ところが文在寅(ムン・ジェイン)政権(2017~2022年)は、親北朝鮮的な政策を行っていたため、北朝鮮に遠慮してそれほど強い働きかけはしなかった。領事関係や通商代表部の設置を働きかけた程度だった。

現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権になり、国交再開を強く推進することになった。とくに2023年、朴振(パク・チン)外相がカリブ諸国連合(ACS)閣僚会議に出席したことが、大きな転機になった。ここで韓国とキューバは高官協議まで行ったようだ。

これまで韓国人がキューバを訪れる数も増えてきた。コロナ禍前の2014~2019年の5年間で、韓国人のキューバ訪問者数は5000人から1万5000人にまで増え、交流が深まっていた。キューバ国内にも韓国語を勉強し始める人、ドラマや歌手などの韓流が好きな人など、ファンクラブの会員数は1万を超えているという。

今回、北朝鮮がキューバや韓国に対し妨害工作があったかどうかは表面化していない。ただ、元統一戦線部長の金英哲(キム・ヨンチョル)氏がキューバを訪れた際、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の親書を携え、韓国の動きを警戒するよう伝えたことがある。

(東洋経済・本誌コラムニスト 福田恵介)

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