不動テトラが「業績と同じぐらい」重視すること 育業推進が「深刻な人手不足」の打開策に?
育児・介護休業法の改正や産後パパ育休(出生時育児休業)※2の後押しもあり、多くの企業で育業を推進する動きが見られる。しかし、業務の形態・内容などが育業の障壁になってしまう業種もある。
例えば、一般的に建設会社では、社員が現場監督や技術者として現場に配置される。こうした業務は請負仕事で工期・納期が決まっているうえ、現場が遠隔地になることも多い。代替人員の配置が難しく、時短勤務やフレックス勤務もしづらいなど、オフィスワークに比べると育児との両立が難しいとされている。
さらに建設業界は、「2024年問題」※3にも直面しており、育業も含めた働き方改革が喫緊の課題となっている。
こうした業界にあって、育業を意欲的に進めているのが、地盤改良や海洋土木に強みを持つ建設会社、不動テトラだ。他の建設会社と同様、同社も現場業務に就く社員の割合が高く半数近くに上るのだが、2022年度の育業取得率は男女ともに100%となっている。
育業しやすい雰囲気づくりにも注力
育業しづらいといわれる業界にもかかわらず、同社はなぜ、高い育業取得率を実現できたのか。同社 人事部 副部長の小林宏氏は、こう明かす。
「以前から女性の育業取得率は100%でしたが、男性は25%(2021年度)にとどまっていました。男性の育業取得率が上がるきっかけは、育児・介護休業法の改正です。このスタートに合わせて、育業期間の初めの5日間を有給にするなど、さまざまな施策を行いました。
また、2年で失効する年次有給休暇を最大50日まで積み立てられるライフサポート休暇制度を見直して、育児や介護などに利用できるようにしました。初めは有給期間の5日程度の取得者がほとんどでしたが、さまざまな休暇を組み合わせて、長期間育業する男性従業員が徐々に増えてきています」
加えて同社では、育児短時間勤務や所定外労働の免除、時間外・深夜業の制限、子の看護休暇などの適用期間について、法定を上回る小学校6年生までにするなど、仕事と育児を両立できるような制度を導入している。また、経済的支援策として、子の出生時に育児支援一時金を支給している。
育業当事者も、柔軟な制度を利用して、現場業務の入らない期間に育業するよう調整するなど、業界ならではの工夫も状況に応じて行っているという。
ただ、制度を整えるだけでは、育業したいと言い出しにくい空気や、育業していることへの罪悪感などを払拭できないため、育業しやすい雰囲気づくりにも注力しているという。
「雰囲気づくりの1つが、トップからの働きかけです。当社では、新年や新年度などの節目に社長が全社員に向けた談話会を行っています。その中で育業に関する制度や会社の育業に対する姿勢について話してもらっています。オンラインでも視聴でき、オンデマンドや書き起こしのPDFも発信しています。
また、マネジメント層の意識を変えることも重要ですので、育業当事者の上司への働きかけも随時行っています。こうした1つひとつの取り組みを積み重ねることによって、育業取得率の向上につながっているのだと思います」
育業を真に根付かせるために必要なこと
同社では、育業する従業員の仕事は、ほかの従業員がカバーするか、有期雇用の派遣社員で補っている。替えが利かないポジションもあるため、場合によっては会社として請け負う仕事の量を減らさざるをえない場面も今後あるかもしれないという。
「業績面だけを見れば、育業を推進することでマイナスが生じる可能性はあります。ただ、会社としてそれと同じぐらい重視しているのが、従業員の働きやすさや働きがいを高めることです。建設業界は人手不足が深刻で、新たな担い手を見つけるのは容易ではありません。制度の充実・実績、社員の満足度を上げることが採用にも関わってくる。つまり『この会社で長く働きたい』『この会社に入りたい』と思ってもらえる環境づくりが必要不可欠なんです。とくに今の若い世代は、会社のそうした部分をよく見ていますので、われわれとしても覚悟を持って取り組んでいます」
小林氏はもう1つ、育業の効果を挙げる。
「育業取得率が上がることで、多様な働き方に対する社内の意識も高まりつつあるのを実感しています。育業取得率と社内の意識向上は、相乗効果で高まっていくものなんだなと。こうした気運を生かし、今後は取得率だけでなく、育業のさらなる期間伸長によって実のある育業や育児をしながら技術者としての価値を高める方法を模索するなど、残された課題にも向き合っていきたいと考えています」
育業は、制度の整備だけでなく、多様な働き方に対する意識が醸成されることで普及する。育業する人が増えれば、社内の意識や風土がよりよいものになり、活力が生まれる。裏を返せば、育業を真に根付かせるためには、制度だけ、あるいは意識だけではダメで、その両方を連関させながら高めていく必要があるということだろう。