リコー「男性の育業取得率4年連続100%達成」の訳 都知事が語る「企業価値の向上に必要なこと」
――厚生労働省によると、2022年度の育業取得率は、女性が80.2%なのに対して、男性は17.13%です※。
小池 男性の育業取得率は、女性に比べると圧倒的に低いですね。都内にはリコーさんのような大企業もありますが、ほとんどが中小企業です。一方、従業員数でみると、約6割の780万人が大企業で働いています。社会全体で育業を広めていくためには、中小企業の取組と大企業の取組の両方が重要です。育児休業というと、「休んでいる、サボっている」といった空気感が漂うのですが、そうではなく、楽しみながら子育てに当たるという、育児の楽しさを実感できるような社会を官民一体でつくっていきたいと思っています。
山下 「育児は未来を育む仕事である」という視点で考えると、育業取得率は男女差が大きすぎますね。
リコーが育業を推進できた要因とは?
――リコーは、男性社員の育業取得率が4年連続100%達成、平均取得日数も28.1日と、極めて高い数字です。
山下 性別に関係なく、働き方の選択肢をもっと増やさないといけないのではないかと考えました。弊社には、製造から営業までいろいろな職種がありますが、職種によって最適な働き方を社員に選んでもらおうと思ったんですね。そうすると社員みんなが自律的に働き方を工夫する、そういう会社になれるのではないかと思いました。
働き方変革、できれば「働きがい改革」がいいですね。どうしても企業側は、「働かせ方改革」になりがちなのですが、それだけは注意しようと思ってやってきました。社員が自律的に働き方を選択できる環境、社会に責任を持って貢献できる環境を整えると、社員も生き生き働けるのではないかと思って進めてきました。
2020年4月に緊急事態宣言が発出され、弊社も一気に全員が在宅勤務になりましたが、7月に「創ろう!My Normal」という働き方ガイドを出しました。いろいろな選択肢を全部オープンにして、この範囲ではすべてやってもいいということにしました。
ただ、1年ぐらい経ちますと、在宅を続けている社員から、組織としてのチームワークといいますか、社員の連帯が弱くなったとか、新入社員のサポートが不足しているとかですね、少し孤独感を感じるという話がずいぶん入ってきました。それを聞いてすぐ、今度は「創ろう!Our Normal」、つまりチームで働き方を考えようじゃないかと。組織・チームで一緒に考えて、その機能に合ったパフォーマンスを出せるようなルールを決めたらどうだということになりました。この動きから、育業する社員も上司や組織が何かとサポートするという流れにつながったのではないかと思います。
小池 職業選択の自由というのがありますけれども、「働き方選択の自由」ということですね。改革として進めていく中で、トップリーダーが理解しているかどうかが、変革できるかどうかの分かれ目になります。トップマネジメントがあるからこそ、男性の育業取得率100%達成と、平均取得日数が28日を超えるということにつながったと思います。
また、それによって優秀な人材の確保・育成ができたり、企業価値の向上にもつながったりします。おっしゃるようにMy NormalからOur Normal、チームということですね。それによって最適な働き方をみんなで探す。誰かが育業をすると、「その分の負担がこっちにかかってくるじゃないか」と、周りが不満に思うのではなく、それをお互いさまというか、協力し合って育業を定着させていく。その大変よいモデルを実行されていることは、ほかの経営者や企業の方々にも、気づきを与えてるんじゃないかなと思いますね。すばらしいです。
「育児か仕事か」の二者択一から「ともに輝ける社会」へ
――経営戦略における育業については、どのように考えていますか?
山下 企業が成長するときにいちばん大事なのは、社員のモチベーションで、社員のモチベーションの総和が企業の成長につながるのだと思っています。「働きがい」と「経済成長」の両立は、そういったところから回って、持続可能な社会への実現というものにつながっていくのではないでしょうか。育業の推進は、社内の働き方変革の問題だけではなくて、社会において企業が果たすべき責任と捉えています。
――企業の考え方が社会全体にも影響を与えるということですね。
小池 一つの企業としての行動変容、そして風土の改革につなげるには、やはり経営者自身の意識改革、そしてトップマネジメントを最大限発揮していただく必要があります。育業の推進に積極的に取り組む経営者が、さらに増えていってほしい。男性であれ、女性であれ、育業する人が増えていくということが、サステナブルな社会づくりへの大きなムーブメントです。東京都も企業を支援し、大企業・中小企業の別なく育業を推し進めていく。そのことがサステナブルな東京づくりにつながると思っています。
――まさに今、育業の推進に取り組もうとしている経営者や人事担当者らに、メッセージをお願いします。
山下 2カ月間育業をした男性社員が、「最初の目的は、妻と上の子どものケアのためだったけど、実は自分を成長させてくれた」と言っていたんですね。育業後に職場復帰した彼は、「リコーに対するエンゲージメントが過去よりもっと上がった」「職場の雰囲気が、育業を後押ししてくれたことにも感謝しています」と。これは私にとってすごくうれしいことです。
小池 日本では、育児か仕事かの二者択一でした。そうではなく、育児と仕事と共に輝ける社会づくりが必要です。「子育ては楽しいよね」というところにどうやって持っていくかだと思っています。
言葉って大事で、例えば「砂漠の遊牧民」という文字だけを見ると、遊んでいるように思いますが、自然と戦っていて24時間忙しいんですよね。それと同じように、育児休業とか休暇っていうと、サボっていると思われがち。そうじゃなくて「育業いいよね、楽しいよね」と、法律用語も育業に変えればいいなと考えています。
経営者の皆様のトップマネジメントが、社会全体の育業の推進につながりますので、これからも官民一体で進めていきたい。多様な働き方、働き方の選択肢を持って、誰もがそれぞれの希望に合わせて柔軟に働く社会、子どもの笑顔があふれる社会をつくっていきたいと思っています。