ビームスが育業だけでなく不妊治療も支援する訳 「仕事も育児も楽しむ環境」が働く動機づけに

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目的があって制定された社内のルールや制度であっても、その後の運用がうまくいくとは限らない。育業※1に関する制度もそうだ。制度の周知や欠員を補う体制の構築が追いつかずに、制度が形骸化してしまうケースも少なくない。こうした中、ビームスでは育業の推進はもとより、育業する前段階の支援と位置づけた「不妊治療支援制度」を整備するなど、さまざまな施策を実施している。仕事も育児も楽しんで、働くモチベーションにつなげてもらおうとしているビームスの取り組みを取材した。

店舗展開を行うアパレル企業は、育業を推進しようとしても現場の忙しさや人員調整の難しさなどの問題で、従業員が育業しにくい状況に陥りがちだ。店舗スタッフと内勤部門との働き方の差による公平性の担保も大きな課題となっている。

ところが、セレクトショップを展開するビームスでは、女性の育業取得率は100%で復職率もほぼ100%、低くなりやすい男性の育業取得率も88%と非常に高い数字を実現している※2。同社総務部長の立浪泰子氏は次のように語る。

ビームス 業務管理室 総務部長 立浪泰子
ビームス
業務管理室 総務部長 立浪泰子 氏

「当社には、今ほど会社の制度が整備される前から育業しやすく、職場復帰もしやすい雰囲気があります。私自身、第1子が生まれた18年前は、出産するスタッフが少なかったのですが、気持ちよく育業させてもらい、職場復帰する際も快く受け入れてもらえました。

従業員数の増加に伴って、育業に関する制度の整備を進めてきましたが、育業で欠員が出たとき、内勤部門や大型店舗は調整したり補い合ったりしやすい一方、小規模の店舗になると調整が難しい。育業を推進するためには、部署間の協力が大切だと感じています」

法改正を機に経営層から「育業」を再周知

同社の従業員数は約2200人で、男女比率はほぼ同じ。そのうち常時100人前後が産休、育業中だという。産休は法令どおり産前6週間、産後8週間で、育業は正社員の場合、男女ともに法令より長く子どもが3歳になるまで。また、子どもが小学校3年生終了時まで短時間勤務制度を利用できるなど、働き方の自由度が高い制度設計になっている。

だが、多くの企業がそうであるように、制度を整えるだけでは育業取得率の向上は難しく、とりわけ男性の取得率は伸び悩んでいる。

同社も、5年ほど前までは育業する男性はおらず、初めて育業する人が出たときも期間は短かったという。一方、従業員が結婚、出産のライフイベントを迎えるケースが増加し、男性の育業ニーズは徐々に高まっていった。

大きな転機となったのが、2022年の育児・介護休業法の改正。これを機に育業に関する制度の再周知に取り組んだ。その際のポイントは、組織の上層部から現場へと情報を広げていったことである。

「まず、経営層に対して『法改正でこうなります』と伝え、そこからマネジメント層、さらに現場スタッフへと伝えていくように工夫しました。どうしても男性は『働かなければ』という意識が強いですが、上司から直接伝えられると『育業していいんだ』と受け止めやすくなります。

マネジメント層の理解も非常に重要です。当社で男性の育業が増え始めたのは、役員やマネジメント層で育業する人が出てきたのがきっかけでした。実際に育業した人の経験談が従業員間で広まっていったこともあり、育業する人は自然に増えていきました。育業取得日数も数カ月から半年程度の人は珍しくなくなり、1年間という人も出てきています」

個々の事情に合わせた「ベストな育業の形」を模索

同社は、個々の育業希望者に対する個別面談の実施や、ベストな育業の形の提案・調整、育業中や復職時のフォロー活動にも注力した。

ベストな育業の形は、家族構成やパートナーの働き方などによって異なる。そのため同社では、従業員からの相談に対応できるよう、法改正による変更点を把握したうえで、産後パパ育休(出生時育児休業)と通常の育業の組み合わせや夫婦交互での育業など、想定されるさまざまなパターンを検討。疑問点を潰して、個々の事情に合わせたアドバイスができるようにしていったという。

「男性の場合、収入面の相談を受けることが多いですね。また、当社では社内結婚が多いので、夫も当社で働いている女性従業員から育業の申し出や相談があったときは、担当者から『パートナーの方の育業はどうされますか』と積極的に声かけを行っています。

育業に入った後は、どうしても社内の情報が入りづらくなるので、定期的にメールで情報発信を行っています。保育園の申し込みや福利厚生制度の利用に関することなどについての相談も、随時受け付けていますので、安心して育業してもらえているのではないでしょうか」

不妊治療と仕事の「両立支援制度」を整備

育業を推進すれば、必ずと言っていいほど店舗では人員調整の問題に悩まされる。この点については、販売現場を統括する部門と人事、総務が密に連携を図ることで、最適な人員バランスを模索しているという。

23年秋からは不妊治療と仕事の両立支援制度を整備した。これは不妊治療のためのバースサポート休暇・休業や短時間勤務からなる制度で、育業する前段階の支援と位置づけられている。制度整備のきっかけは、従業員アンケートの結果から不妊治療支援の希望者が一定数いることが判明したからだ。

ビームス 業務管理室 総務部長 立浪泰子

「子どもが小さい時期は一瞬で終わってしまうことを考えると、育業の体験は、人生において非常に大切なものです。また、共働きが増え、『育児の喜びや大変さをシェアする時代』になっているので、男女ともに希望する期間の育業をし、育児に向き合う時間を楽しんで人生を充実したものにしてほしいと考えています。今後も、働く仲間に満足してもらえる環境を整えていき、仕事と育児どちらも楽しんで、働くモチベーションにつなげてもらいたいですね」

※1 東京都が2022年に公募で定めた育児休業の愛称。育児休業を「仕事を休む期間」と捉えるのではなく、「社会の宝である子どもを育む期間」と考える社会のマインドチェンジを図ることを目的としている
※2 2022年度は女性100%・男性70%、2023年3月1日~12月31日は女性100%超・男性88%。育業取得率は、該当年度の新規育業取得可能者に対する新規育業取得者数の割合で算出しており、100%を超えることがある
 
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