ローソンが2005年から続ける人財の多様性戦略 育業取得率を高めたい企業が目指すべき哲学

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政府が2022年に導入した産後パパ育休(出生時育児休業)※1の後押しもあり、各企業が育業※2の促進に取り組む中、高い成果を出しているのがコンビニエンスストアチェーン大手のローソンだ。22年度の育業取得率は女性100%・男性91%で、男性は5年連続で9割超。注目すべきは、ダイバーシティー推進を「生き残り戦略」と捉え、成果につなげている点だ。同社の育業施策について取材した。

ローソンの育業施策の端緒は、2005年にさかのぼる。育業促進などに携わる同社 執行役員 人事本部長 日野武二氏は、こう話す。

ローソン 執行役員 人事本部長 兼 ローソンウィル 代表取締役 日野武二
ローソン
執行役員 人事本部長 日野武二 氏

「コンビニ業界は2000年前後に、それまでの拡大路線が一段落して岐路を迎えました。そうした状況の中で当社は、ダイバーシティーの推進に大きく舵を切りました。

コンビニは、老若男女・多種多様な方々が利用されます。そうした方々のニーズを満たすためには、商品・サービスを提供する私たち自身が、多様な人財で構成されていることが重要になる。そんな考えに行き着いたんです」

ヒット商品の開発につながった育業中のアイデア

同社のダイバーシティー戦略は、いわば生き残るために不可欠なテーマとして始まった。そして、その一環として05年度に始まったのが、女性を積極的に採用する施策だ。それまでは女性比率が1~2割程度だった新卒採用について「女性比率を50%にすること」を目標に、女性を積極採用したのだ。約20年が経った今も継続されており、08年度からは外国籍の人財にまで幅を広げた。

並行して女性の育業環境の整備も進めたが、女性の仕事と育児の両立を実現するには、男性の育児参加率も高める必要があるという「解」にたどり着く。そこで14年度に新設したのが、男性社員が取得しやすい「短期間育児休職制度」だ。

「短期間育児休職制度は、産後3カ月の間に、5日間を上限に育児を目的とした休暇を有給特別休暇として取得できる制度です。制度の整備に合わせて、上司や職場の同僚たちにも働きかけ、育業しやすい雰囲気づくりも進めました。その結果、13年度に16.1%だった男性の育業取得率が、14年度には70.4%となり、18年度以降は5年連続で90%を超えています。産後パパ育休制度が22年から段階的に施行されたのを機に取得日数も大幅に伸び、現在の平均取得日数は22.3日となっています」

同社は、育業から復帰する社員の比率も高く、00年度以降の復職率は累計で94.4%となっている。なお、女性の育業取得率は100%で、女性従業員に占めるワーキングマザー※3率は、01年度に比べて約5倍の24.8%に上る。

ローソンの育業促進施策の例
・育児時短制度(小学3年生以下の子どもを持つ社員が希望した場合、1日3時間までの時短勤務ができる制度)
・勤務日数減少制度(小学3年生以下の子どもを持つ社員が希望した場合、週3~4日勤務ができる制度)
・短期間育児休業制度(出生日の2カ月以降~6カ月の間に上限5日〈特別有給〉まで休業できる制度)
・祝日休日制度(小学3年生以下の子どもを持つ社員が希望した場合、ローソンの勤務体制で勤務日になっている祝日を休日にできる制度)

同社の育業促進施策は、さまざまな成果を生み出している。その1つが、15年の発売以来、同社を代表するヒット商品となったチルド飲料「NL グリーンスムージー」の開発だ。商品開発を担当したのは、育業から復帰した女性社員。もともと野菜嫌いだったが、出産して健康に気を遣うようになった中で生まれた発想だという。コンビニで商品化することで、手軽に購入できるようにしたいという想いを、復職後に実現したのだ。

また、育業を行う従業員の業務は、職場全体でカバーすることになるため、自然と仕事の可視化や標準化が行われると同時に、効率化も図られる。さらに、業務の属人化の改善や効率化は、従業員の満足度の向上にも一役買っており、全社員を対象とした社員意識調査では、5年連続で7割超の社員が「この会社で働くことに総じて満足している」と答えている。

育業浸透のカギは「真のニーズ」を正確につかむこと

同社ではなぜ、育業が社員に広く浸透し、成果にもつながっているのか。

「当然ですが、いくら会社が育業を推進すると言っても、それが求められるものでなければ意味がありません。そこで当社では、育業したい従業員が、どうすれば気持ちよく育業でき、また職場に戻ってこられるのか、育業する人を送り出す周囲の人たちが、どうすれば気持ちよく送り出せ、復職を歓迎できるのか、をアンケートやヒアリングを通して把握するようにしています。つまり、従業員の『真のニーズ』を正確につかむことが、育業が広く浸透している大きな要因です」

そしてもう1つ。同社に根付く「チームワークを大切にするカルチャー」も育業浸透を後押ししている。

ローソン 執行役員 人事本部長 兼 ローソンウィル 代表取締役 日野武二

「当社では、グループ理念やビジョンの実現に向けて行動を起こす際に心がけるべき共通の考え方を『ローソンWAY』として定めています。大きな目標達成のためには、知見を共有しながら、協力して仕事を進めることが不可欠である。そうした行動指針が社員によく浸透し、それが育業する人をみんなでカバーすることや、復職した人によるいっそうのチーム貢献につながっていると思います」

会社の「負担」と捉えられがちな育業促進を、成長戦略の一環と捉え、そこから生まれる多様性やエンゲージメントの高さを武器に成果を生み出す。従業員の育業取得率を高めたいと考える多くの企業にとって、目指すべき哲学が、そこにはあるのではないだろうか。

※1 政府が2022年10月に導入した育児休業制度で、子の出生後8週間以内に最大28日間の休業を取得できる制度。休業中は、出生時育児休業給付金として国から給与の約67%が支給される
※2 東京都が2022年に公募で定めた育児休業の愛称。育児休業を「仕事を休む期間」と捉えるのではなく、「社会の宝である子どもを育む期間」と考える社会のマインドチェンジを図ることを目的としている
※3 育児をしながら働く女性
 
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