脳損傷の患者に「脳インプラント」という光明 初の有効な治療法になる可能性

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ヘンダーソン氏は6人のボランティアに電極を埋め込んだが、そのうちの1人は、頭皮に感染症を起こし、研究からの離脱を余儀なくされた。手術の1か月後から、残りの5人のボランティアの追跡テストが始まった。先述した文字と数字を使った試験では、スコアが15%から52%に跳ね上がった。

ボランティアの体験をより深く理解するために、ワイル・コーネル医科大学院の医療倫理学者ジョセフ・フィンズ氏が、ボランティアとその家族に一連の聞き取り調査を行った。アラタさんを含むほとんどのボランティアは、インプラントによって以前の自分に近づいたと語った。

反対に、認知テストで最大の改善が見られたボランティアの反応は「痛くないと思う」「役に立ったかどうかは、よくわからない」という煮え切らないものだった。

しかし、この患者の息子は、とくに父親の自己認識に著しい変化を認めている。「昼と夜ほど違う」と息子は言った。

追求する価値のある治療法

今回の研究には関与していないリエージュ大学(ベルギー)の神経科医スティーブン・ローレイズ氏は、注意力やその他の思考形態が脳全体のネットワークに依存しているという理論を裏付ける結果だと語った。同氏はこの研究について、「追求する価値があると信じる十分な理由がある」と話す。

シフ氏の研究チームは、脳インプラントに関する大規模な研究を計画している。「データが最終的にどうなるかを見る必要がある」とシフ氏は述べた。

オックスフォード大学の神経外科医で、今回の研究に関与していないアレックス・グリーン氏は、脳内ネットワークのハブとして有望視されている領域は外側中心核だけではないと話す。

「どこを刺激するのがベストなのかは、まだよくわかっていない」とグリーン氏。グリーン氏の研究チームは、脳損傷に関連して、脚橋被蓋核と呼ばれる領域で電極を試す独自の試験を準備している。

ローレイズ氏は、インプラント手術が高額なものになることを認める一方で、外傷性脳損傷に多くの人々が苦しんでいることを社会として認識すべきだと主張した。「これは静かに蔓延している問題だ」と同氏は言う。

(執筆:Carl Zimmer記者)
(C)2023 The New York Times

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