齋藤:私は、余白をどう作るかだと思っています。そこが唯一、主体的でいられる場所だからです。大人も子供も、やらなければならないことが増えていって、自分で自由に使える時間がなくなっています。そのバランスをどうとるか。人間はどうしても緊急性や重要なことばかりに目が行きがちですが、緊急性がなくても重要なことだってあるはずです。これを意図的に組み込んでみる。
また緊急で重要だと思っていることが、本当に重要なのかという問いを立てることも有用でしょう。受験していい大学に行かなければならないというのは本当か。強迫観念でそう思っているだけではないのか。認知バイアスがかかっているのではないか。水泳が得意な子に木登りをさせているのではないか、という問いです。
安居:私は、究極的には、もう開き直るしかないと思っています。要するに自分は自分でしかないのだから、その自分を100%周りに出せるかということです。相手に合わせようと取り繕ったりする人もいるかもしれませんが、すると常に自分を作っていかないとなりません。職場でも、人生においても、それはつらいですよね。自分は自分でいいんだという自己肯定感を高める最良の方法は、「自分はこういう人間です」と詳らかにしてしまうことです。
「白地図」を自分色に塗ってもらえたら
宮田:では最後に、これまでの議論を踏まえた本書の意義や、今後の活用の仕方についてお伺いしたいと思います。
木村:齋藤先生は先ほど本書を地図だとおっしゃっていました。私は「攻略本」として、子供たちに提案していきたいと思います。入り口は簡単なのですが、そこから自分自身に落とし込んで考えていかなくてはならない、人生を考えることは深い沼を探究することでもあります。その深い沼へと誘う第一歩になるのではないかと考えています。
齋藤:本書はもちろん生徒たちに手に取ってもらいたいのですが、教える先生の側にも気づきがあると思います。本書を通して自己との対話ができるようになってくる点が、非常におもしろい。私も本書をベースに全6回の授業を実施する予定です。
安居:私は、地図は地図でも、本書は白地図みたいな本だと思っています。本校の生徒には、まずは一通り読んでもらって、引っかかった点や疑問点、気づきなどを拾い上げ、そこから話を膨らませていきたいですね。読む人によってフックになる部分は異なると思うので、それをどう捉えて、どう展開して、教える側はそれをどう活かして生徒にアプローチするか。そこまで考えることのできる本だと思うので、本書は自分色に塗ってもらえたら一番いいと感じています。
宮田:ありがとうございました。
宮田 純也
一般社団法人未来の先生フォーラム代表理事
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みやた なおや / Naoya Miyata
早稲田大学高等学院、早稲田大学教育学部教育学科教育学専攻教育学専修卒業、早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」創設や2億7100万円の奨学金設立など、様々な教育に関する企画や新規事業を実施。株式会社未来の学校教育 代表取締役などを務める。編著書に『SCHOOL SHIFT』(明治図書出版)。監修に『16歳からのライフ・シフト』(東洋経済新報社)。
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きむら ゆみ / Yumi Kimura
都立高校の家庭科の教諭として定時制、職業科、改革推進校、進学校、新設校などに勤務。都立高校在職中に、東京都教育委員会設定教科「人間と社会」の研究開発委員、ZKK(全国家庭科教育協会)理事、NHK高校講座「家庭総合」監修者を務め、2022年3月に退職。現在は、早稲田大学にてリーダーシップ教育支援、淑徳大学、立教新座高校にてリーダーシップ教育に関する授業を担当。玉川大学では小学校の教員養成に関わっている。ライフワークとしては、「みらい家庭科ラボ」を立ち上げ、オンラインカフェの運営や授業に関するコンサルタントを実施し、コミュニティ運営に力を入れている。『16歳からのライフ・シフト』(東洋経済新報社、編集協力)
齋藤 亮次
公文国際学園中等部・高等部教諭/ブランド分析室
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さいとう りょうじ / Ryoji Saito
早稲田大学教育総合研究所特別研究員、厚労省公認キャリアコンサルタント。誰もが自分らしく生きていけるために、キャリア教育として社会科教育や探究学習、アントレプレナーシップ教育、進路支援、学校と教師のトランジションなどに取り組む。自らもジェネレーターとして数々の探究学習や国内外フィールドワークを設計し、生徒と取り組んだ「SDGsを漫画で学べるトイレットペーパー」で日本トイレ大賞2021を受賞。今までに中高生延べ1,000人以上のキャリアを支援し、探究学習とキャリア教育のアップデートに取り組む。『16歳からのライフ・シフト』(東洋経済新報社、編集協力)、共著に『SCHOOL SHIFT』(明治図書)など
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やすい ながとし / Nagatoshi Yasui
大学卒業後、滋賀女子高等学校に赴任し、20年間教鞭をとる。その後、コミュニティFM2局の設立やITオンラインサポート事業を起業。2006年から再び学校現場にもどり学校改革、学校経営に取り組む。校長就任後は「PBL×ICT教育」の新しいスタイルを構築し、学校と企業をつなぐなど、現場で様々な活動をアクティブに実践中。現在は学習者中心のドルトンプランを実践したドルトン東京学園中等部・高等部で校長を務める。『16歳からのライフ・シフト』(東洋経済新報社、編集協力)