「73年黒字を継続」中小部品メーカーの経営術 国産にこだわり「JIS規格を活用する」思考
「高品質・品揃え・即納」を独自の生産体制で
森清化工の2021年度売上高は過去最高、前年比18%増を達成した。好調な業績を支えるのが、独自の生産体制だ。材料の調達から生産、受注、検査、出荷までを一元管理している。
「主力の生産拠点は、千葉県匝瑳市にある千葉工場。ここでは年間で約2億個以上のOリングを製造し、そのすべての工程を工場内で完結しています。製造工程の追跡機能も実現しており、製品ラベルに記載されたロットナンバーを照合すれば、いつ誰が作業をした製品か瞬時にわかります」
一部工程を協力工場に委託するメーカーも多いが、毛利氏は「千葉工場では、いっさいしていない」と断言する。
「目的は、製造に責任を持つことです。当社は『高品質・品揃え・即納』を社是としていますが、責任を取れる体制を整えて確実に管理しなくては、すべての前提となる『高品質』が実現できません。外部に委託したり、当社の目が届きにくい海外で生産したりすると、ここが難しくなると考えています」
多様なニーズに対し、迅速に対応する「品揃え」「即納」も、高品質が前提にあるからこそ価値を発揮する。平たく言えば「いいものを、豊富な選択肢からすぐ買える」ということであり、同社の「顧客の需要に必ず応える」という覚悟の表れだ。同社は、創業時からこれを単なる“掛け声”ではなく、仕組みとして確立してきた。
「当社はもともと子ども用ゴム長靴の製造・販売をしていました。長靴は、冬や梅雨の時期に集中して売れます。また、定番のサイズやカラーのほかにもニーズが広くあります。そこで、あらかじめ特殊サイズ・特殊カラーの製品も見込み生産をしておき、在庫を確保していました」
当然、過剰在庫となっては意味がないため、販売統計に基づいた需要予測はシビアに行う。自社内ですべて完結する生産体制だからこそ「在庫を無駄と考えない」ことが可能となる。同社はこのやり方を、Oリング専業メーカーになってからも踏襲、強化してきたというわけだ。
JIS規格を「活用」することで不良率を低く抑える
しかし、品質と品揃えを両立させようとしたら、利益が薄くなりそうなものだ。同社が73年間にわたって黒字経営を続けてこられたのはなぜか。毛利氏に聞くと「徹底してJIS規格に準拠してきたから」との答えが返ってきた。
「JIS規格は材質から寸法まで非常に厳格ですから、順守することで品質の高さが担保できます。でも実は、JIS規格を守るだけでは駄目で、活用しなくてはいけません」
活用の一例が、同社が独自開発した「モリセイ規格」だ。JIS規格にないサイズや硬さへのニーズが多いことから独自の規格を作成し、2022年末現在で100万種類以上の製造可能サイズを取りそろえる。もちろん、ベースとなっているのはJIS規格。都度、関係機関に確認を取りながら進めてきた。
これだけでも収益向上に大きく貢献していることがわかるが、もう1つ見逃せないのが「検査」での活用だ。製造業において検査は非常に重要だが、Oリングの果たしている社会的役割を鑑み、同社の「検査」に対する意識はとくに高い。不良品の可視化にもいち早く着手した。
「Oリングは、気体や液体が漏れるのを防ぐ部品です。飛行機や自動車などにも多々使われていますから、万が一ミスがあれば人命に直結します。それだけに、検査部門の判定が必要以上に厳しくなってしまい、明瞭な判定ができないものはすべて不良品と判断する傾向がありました。もともと、当社の不良率は業界のスタンダードを下回っていましたが、損失額は決して小さくない。Oリングはゴム製のため、不良品を戻して再利用することも困難です。そこで、もともと取り入れていたJIS規格をもっと活用する方法として、デジタル測定機器やマイクロスコープを導入、外観不良などの問題点を定量的に判断することで迅速な原因の究明が可能となりました。このような、JIS規格のさらなる活用によって、生産現場への適切なフィードバックと即対応の体制づくりが可能となり、工場全体の品質向上にもつながりました」
検査体制の充実により、22年には不良率が以前の1/4程度に抑えられるようになった。利益の向上に加え、環境負荷低減にも貢献した意義は大きい。
クロス管理体制とマルチスキル化が組織を強靱に
創業から現在まで、国内生産を貫く同社。BCP対策にも力を入れている。
「特徴は各部門にクロス管理体制を敷いていること。品質管理や生産管理、出荷、製造、検査の各責任者を3名体制としています。担当分野以外のスキルも持つことで、特定の誰かの不在に備え、組織全体を強くしています」
ものづくりの現場はいわゆる“職人気質”が生まれがちだ。しかし、こうした工夫によって属人化を防ぎ、業務に複数の視点を取り入れられる。必然的に、柔軟かつ強靭な組織づくりにつながっていく。
「責任者だけでなく、従業員全員にいろいろな工程を経験してもらうようにしています。生産管理も検査も出荷も、それぞれノウハウや難しさがありますから、それぞれの業務を経験することで初めて見えるものがあるはずです」
全員がマルチスキルを磨くことで真の「適材適所」が見えてくるうえ、相互に尊重する意識も強まるというわけだ。さらに、顔を合わせたコミュニケーションを重視し、組織横断型の昼食会を定期的に開催して社内の風通しをよくしているほか、毛利氏は工場内で従業員と同じフロアに常駐し、相談しやすい雰囲気をつくっている。従業員は自律的に動きやすく、経営者は素早く意思決定できる環境だ。
「創業者である私の父は、たびたび『われわれは家内工業だ』と言っていました。守るべき基準をしっかり守り、お互いを思いやって補い合う、いい意味での家族的経営が『高品質・品揃え・即納』の実現につながると思っています」
家族の介護で退職した社員が出戻ったり、育児などの都合に合わせたフレックス勤務が可能だったりと、働きやすい環境を整備しているのも「家族的経営」の一環だと毛利氏。いわゆるダイバーシティー経営だ。2022年度は賞与を4回支給するなど、利益を積極的に従業員に還元している点で一歩先に進んでいる。
誰もが等しく認識できる確かな基準を設けて製品の品質を高めつつ、互いが自然に補い合える関係性を築いて組織の強靭化も進める――。「メイド・イン・ジャパンの誇り」を込めたものづくりをする森清化工の経営手法は、一見ウェットながら合理思考に根差しているのが特徴だ。競争力を高めて黒字体質に転換したいと考える、多くの中小企業にとってロールモデルとなるだろう。