「ウィル・スミス事件」日本の議論に対する違和感 スミスが黒人のイメージを悪化させていると?

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黒人男性は怒りっぽく、暴力的で、精神疾患を患っており、一般社会に完全に受け入れられるほど教養がないという固定観念を、彼が植え付けた、という見方である(「もし黒人たちの中で最も優れた1人がスミスのような振る舞いをするなら、彼らの誰も信用できるわけがないだろう」というように)。

こうした意見の中には、スミスの行動が(彼が世界中の人々から慕われている国際的な映画スターであるにもかかわらず、ほかの人種の少年たちよりも)スミスを英雄あるいは成功の模範として見ている黒人少年たちに悪影響を与えるというものもある。

だから、スミスの今回の行動は、自分の恋人や母親、妻、その他の女性が不適切な冗談の標的になったときに、その女性たちを守るための暴力を子どもたちに推奨することになる、という解釈になるわけだ。

「日本人=痴漢」というイメージでいいのか

なるほど、これでアメリカが他の先進国よりも銃乱射事件が多い理由が説明できることになる(白人少年が、主に白人男性が無実の人々を殺すのを見て、「自分も大きくなったらマシンガンを持って、同じように無実の人々を殺してみたい」と思うこと)。

また、なぜ日本が何世代にもわたって痴漢問題を引きずっているのかを説明するのにもこのレトリックは使える(日本の若い男の子が、主に日本人の男性が悪いことをしているのを見て、「僕も大きくなったら、あの人みたいに電車の中で無防備な女性や女の子に手を出したり痴漢したりするんだ」と思うこと)。

しかし、こうした解釈や説明はほかの人種にはあまり使われない。どうしてなのか。

アメリカでは白人男性、日本では日本人男性が支配的な集団に属しているからだ。こうした「1人の否定的行動が全員の否定的行動を示す」というあらすじは、アメリカでも日本でも何世代にもわたってアフリカ系の人々のような周縁化された少数派の人々のために用意されているものなのだ(アメリカやイギリス、その他多くの欧米諸国に住んだ経験を持つ日本人なら、無知な国で無力な少数派であることがどんな感じか、実感しているならわかるだろう……)。

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