[Profile] よしだ・あきひと 1980年宮崎県生まれ。京都市在住。滋賀大学教育学部障害児学科卒業。タイで日本語教師として1年間、帰国後小学校教員として6年間勤務。2010年から写真家。広告や雑誌を中心に活動する。作品は国内外で高く評価される。受賞多数。
「今の仕事をこのまま続けるつもり?」。妻のその一言で人生が思わぬ方向へと動いた男のエッセイだ。
なるほど、妻にここまで言わせるとは、この男、芽の出ないアーティストか何かだろうか。そう思う人も多いかもしれない。しかしそうではない。著者の吉田亮人は小学校の教諭だった。安定した人生が約束された公務員だ。
著者と同じく教師をしている妻は畳み掛けるように言う。「つまんないなと思わへん? そんな人生」。同僚の先生たちを見れば10年後、20年後の自分たちが予想できる。社会的地位に守られ、他人が敷いたレールの上を進む人生だ。
生まれたばかりの一人娘には、父親のそんな姿は見せたくない。なぜなら、より変化が激しくなっていく社会で、娘は自分の力で道を切り開いていかなければならないからだ。「だから家に公務員は二人もいらん」「亮人はいばらの道をいって」と。
妻の正気を疑いつつも、その気迫に押され、著者は教師を辞める決断をする。そして選んだ「いばらの道」が写真家だ。30才を目前に人生ゼロからのスタートである。
そんな著者が最初に選んだ撮影地がタイ国内にあるミャンマー人の難民キャンプだ。軍事政権から逃れてきたミャンマー人たちの困窮と閉塞感に心を痛めつつも、本当にこれが自分の撮りたいものなのだろうかと悩む。結局、彼は難民キャンプで撮影した写真を封印する。写真家としての第一歩は失敗で幕を閉じた。
転機が訪れたのはインド。デリーからムンバイを自転車で走破するという撮影旅行の際だ。偶然訪ねた「更紗(さらさ)」の工場で、前近代的な労働を行う労働者の姿に言い知れぬ「美」を感じたのだ。以来、彼は「労働」に焦点を絞った作品を撮り続けることになる。知り合った労働者たちは「家族のため」に働くと口を揃(そろ)える。「働く」とは何か。写真家として浮き沈みの激しい世界に身を置く著者は、彼らの姿を通して自身の道を再考していく。
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