有料会員登録 東洋経済オンラインとは
ライフ #厳選ノンフィクション

『ベストセラー伝説』 予想外のヒットを生む、変わらない「ぶれない心」

4分で読める 会員登録で読める
ベストセラー伝説(本橋信宏 著/新潮新書/760円+税/224ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
[Profile]もとはし・のぶひろ ノンフィクション作家。1956年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ノンフィクション、小説、エッセイ、評論と幅広い執筆活動を行う。著書に『裏本時代』『AV時代』『高田馬場アンダーグラウンド』『全裸監督 村西とおる伝』など。

1956年生まれの著者が思い入れのある雑誌や書籍の誕生秘話を探る旅だ。『冒険王』『少年画報』『平凡パンチ』から『古文研究法』『ノストラダムスの大予言』まで。緻密なマーケティングよりも、個人の熱意や勢いが世の中を動かしていた時代の出版物が並ぶ。 

1942年に発売され、累計1700万部を超える「豆単」こと『英語基本単語熟語集』。編者で旺文社の創業者である赤尾好夫は、英語教科書や膨大な入試問題から、覚える必要のある単語3800語を手作業で抜き出した。コンピューターがない時代だけに、想像するだけで気が遠くなりそうな作業だ。実際、赤尾はこの作業に4〜5年を要している。

本体よりも厚い付録が子どもに大人気だった学研の学習雑誌『科学』。編集者たちは子どもの思いに応えるために苦労を重ねた。鉱物セットを付けるために鉱山に出向いて価格交渉し、カブトエビが人気となれば農家と田んぼを契約して育てた。球根を大量に買い付けたために品薄になり、市場価格を極端に歪ませたこともあった。

本書は50〜60年代に生まれた人が、懐かしさに思いをはせながら読むのも一興だろうが、ビジネスの視点で読めばまた趣が変わるはずだ。印象的なのは本書の担当編集者の言葉だ。「昭和20年代とか30年代の出版界は机ひとつでできるベンチャーでうまくいけば大きく儲けることもできる。いまのITビジネスのような気もします」。ヒットを呼び込むには、現代では考えられない販促があったことからも、それは明らかである。

累計1700万部を超えるポプラ社の江戸川乱歩『少年探偵』シリーズも、営業マンが足で稼いだ賜物だ。同社が戦後に教育関係の書籍を出版したとき、営業マンが全国の学校や書店を文字通り1軒ずつ回って販促したという。小学校の図書室で見かけたという人も多いだろう。

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ライフ

人気記事 HOT

※過去1ヶ月以内に配信した記事の閲覧数