機体を急旋回させ、ビル群すれすれの高さを飛行して着陸する「香港カーブ」。この言葉に聞き覚えがあれば、もう人生の酸いも甘いもかみ分けた大人だろう。
1998年、現在のランタオ島に空港が移転するまで、香港の啓徳国際空港は「世界一着陸が難しい空港」と称された。筆者も着陸のたびに胸騒ぎを覚えたが、今それを語ってもオヤジの昔話となるのがつらい。
啓徳国際空港近くにあったのがスラム街の九龍城。売春・賭博・薬物が扱われる無法地帯とされ、畳1枚分の面積に対する人口は約3人と、世界最高の人口密度だった。しかし「東洋の魔窟」と呼ばれた九龍城も94年に再開発で取り壊され、かつての面影はない。
潮州式デザートに舌鼓
前号で触れたアート・バーゼル香港行きの最終日、今ではのどかな公園となった九龍城を訪ねた。この辺りはタイ人が集住し、タイ語の看板が目につく。数多くの潮州商人がタイに渡ったことから、潮州料理で知られる「創發」をはじめ、潮州にまつわる店が少なくない。
必ず立ち寄るのが、潮州式のデザートを出す「合成糖水」。店舗は建物の2階部分が道路際まで張り出し、それを柱で支えたアーケードになっている。この柱が騎馬の脚のように見えるため騎楼と呼ばれる建築様式は、スコールや直射日光を避けられることから19世紀末から20世紀初頭にかけて華南から東南アジアで広く取り入れられた。
地味な店内の壁には日本の雑誌のコピーが張られ、オーダー時に役立つ。ハスの実、豆や果物などを合わせて作るが、どの具材もかなり大きい。貧しかった潮州で、ボリュームのあるものが好まれた名残のようだ。雪蛤と呼ばれるカエルの卵巣の脂肪を使った素材にも興味を引かれたが、おすすめはココナツミルクや白玉団子が入った椰汁黑糯米湯圓。これを前にすると“カロリー制限”という言葉は無力化する。
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